インタビューアーカイブ

2021/4

コロナ禍の効果的な看護職採用とは? 変わりゆく現場と求職者の内情

コロナ禍で大きく様変わりした看護職採用の現場。採用スケジュールの後ろ倒しや、院内見学の制限、オンライン説明会や面接といった変化への対応を迫られ、想定していた採用計画の修正を余儀なくされる病院も多かったのではないでしょうか。看護職採用の現場に寄り添い、採用担当者のみならず求職者の内情にも詳しい「一般社団法人 看護職の採用と定着を考える会」の事務局長 早田真二氏に、今年度の効果的な採用活動につなげるために、まずは2020年の採用活動の現状を振り返っていただきました。

早田 真二

一般社団法人 看護職の採用と定着を考える会 事務局長

“求職者の視点”をもった採用活動のサポートに注力

一般社団法人看護職の採用と定着を考える会では、主に看護職の人材確保のお手伝いをしています。具体的な活動は、病院の採用担当者さんに向けた勉強会の実施や、ホームページ・各種パンフレットなどの広報物制作、メルマガ会員への情報発信などです。
最近は、採用関連の動画をはじめ、看護部や寮の紹介などの病院PR用の動画制作をお手伝いする機会も増えています。コロナ禍でオンラインの就職説明会が増える中、説明会の合間にPR動画を流して参加者に病院の雰囲気を知ってもらうなど、その用途は広がりをみせています。

広報制作物を手掛ける広告代理店や制作会社は数多くありますが、当会がそういった企業と異なるのは、求職者側が就職先について、本当に求めている情報や興味がある事柄を、リアルな声をもとに把握しているところだと思います。もともと当会は、医療系の採用担当者同士で課題やナレッジを共有したり、解決法を見つけるための勉強会を開いていたところから発足しました。そのうち、病院側だけでなく、学生や転職活動中の看護師も支援するようになり、今では事務所の一室が医療系学生の自習部屋になっています。日常的に学生や求職者にふれる機会があるので、彼らが就職活動にあたって求めているものや、普段思っていることを把握しやすいのです。

リクルート用のパンフレットを患者さん向けと同じような内容で作っている病院をお見掛けすることがありますが、患者の目線と求職者の目線は違います。求職者にとって、「診療科目が40科目ある」という情報よりも、職員食堂の充実度や駅からのアクセスなどの働きやすさの方が重要なのです。私たちはそういった求職者の視点に立って、採用活動に関するサポートや制作物づくりをしています。

 

2020年の新卒採用は、学校・学生との独自連携有無で成否が二極化

コロナ禍の採用活動状況について各病院にお話を聞くと、新卒に関しては、例年より出遅れてしまった所と逆に早く集められた所の二極化が起きていたように感じます。

大学4年生の採用活動の場合、通常は大学3年生の夏頃にインターンシップが行われ、翌年1月から就職支援会社などによる合同就職説明会が始まります。学生はそこで通勤可能な場所や興味をひかれた病院などを応募先として想定し、4月頃から応募して夏までに内定をもらうサイクルが基本でした。

しかし、2020年は2月に新型コロナウイルス感染症が広がり始め、合同就職説明会が軒並み中止に。例年ですと、そこが学生たちとの接点をもち、病院見学会への参加や応募を促すコンタクトを取る機会となっていましたが、そういった動きができなくなってしまいました。特に、合同就職説明会で多くの学生を確保していた病院は、結果として身動きが取れなくなり、「コロナが落ち着いたら……」と待つうちに、採用スケジュールが3ヵ月以上後ろ倒しになってしまったのです。

一方で、毎年独自に低学年の学生さんとコミュニケーションをとったり、学校との関係性をしっかり築いていた病院は、採用を予定していた人数に早く達したようです。例えば、3年生の時からやり取りをしている学生さんであれば、「春に見学においで」、「直接応募しませんか?」といった直接的なアプローチができます。学生側も、思うように就職活動ができずに焦りも生じていたことでしょうから、見学に行ったことのある病院に応募しようということになり、スムーズな採用活動につながったようです。

 

中途採用は経営難で減少傾向 今後の新卒採用に影響も

中途採用の場合は、勤めている病院を辞めて転職活動をするケースが多いと思います。しかし、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で、院内見学の中止や参加人数の制限をする病院も多く、スムーズに転職活動が進まないがために、働きながら活動をしているという方も多くいました。加えて、新型コロナウイルス感染症によって職員がストレスを抱えやすくなり、病院内にあまりよくない雰囲気が流れ、転職に踏み切りづらくなってしまったという声も聞きました。

また、患者さんの受診抑制の影響で経営的に厳しく、そもそも採用を控えている病院もあります。「採用計画では40人だったが、20人しか集まっていない。しかし、もう仕方ない」と話す病院もあり、どちらかと言えば求職者側以上に病院側の事情があって採用が動かなかった印象です。

ただ、実際人手が足りているかというと一概にはいえず、現場と管理部門の間で認識への乖離があります。これはコロナ禍に限ったことではないかもしれませんが、現場は「足りない」と訴え、採用事務局は「足りているはず」と返すような状況が各病院で絶えません。双方の感覚差に影響を与えているのが、患者数に対して必要とされる看護師数を示した「看護師の施設基準」の存在です。よくお聞きするのは、施設基準で示された人数とスキルは比例しないということです。例えば、スキルがまだ高くない看護師が含まれる場合、実務的には0.5人分の働きになる。しかし、「人数」という視点でみれば、数字上では施設基準を満たしているので、なかなか採用に踏み切ってもらえないといった状況です。ある意味で採用担当者と現場の管理職共通の悩みとも言える課題が続いています。

中途採用の現場が動かないと、新卒の採用にも影響が出てきます。施設基準の話でも見て取れるように、既卒者が同じ病院に留まることで、新卒採用への積極性が薄くなってしまうからです。当会の代表理事の諸橋が人財開発部の部長を務めている新百合ヶ丘総合病院では、2019年時点の看護師の離職率は9%程度でしたが、新型コロナ拡大以降は5%程度まで低下しているとのこと。この動きは以降も継続すると考えられ、2021年の採用では各病院の新卒の枠が多少なりとも減少傾向に寄っていくのではないでしょうか。


後編では、新型コロナウイルス感染拡大下で、オンラインを併用してスムーズな採用を進めるためのポイントやツールの活用法を、早田さんにアドバイスいただきました。また、今後の看護師採用の動向や注目のキーワードについてもお伝えします。

早田真二

一般社団法人 看護職の採用と定着を考える会
事務局長

看護職の確保におけるさまざまなサポートを展開。事務局のオフィスを、看護職を目指す学生に「ナーシングカフェ」という自習部屋として開放しており、学生側の意見や状況を知る場にもなっている。

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