今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第224回 2021/12

経口摂取という選択肢をあきらめない 「多職種」の専門性を活かし、チームで食事介助に取り組む

「口から食べること」は、患者さんやその家族の幸せにつながるだけではなく、五感を刺激し脳を活性化するという医学的なメリットもあります。適切な食事介助を実践するために、医療・福祉の現場ではどのように取り組んでいけばよいのでしょうか。そのヒントを、NPO法人 口から食べる幸せを守る会 理事長で、これまでに10,000人以上の食事介助を行い、8割以上の患者さんを食べられるようにしてきた、看護師の小山珠美氏にお聞きしました。

取材日:2021年11月19日

NPO法人 口から食べる幸せを守る会 理事長
看護師
小山 珠美 氏

NPO法人 口から食べる幸せを守る会

「安全」「安楽」「幸福」「自立」がキーワード
食事介助を行ううえでの心得とは

前編はこちらから
「食べることは、生きる源」 医療・福祉の現場を取り巻く食事介助の課題とは

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

食事介助を行ううえで皆さんに心がけてほしい4つの要素があります。「安全」「安楽」「幸福」「自立」です。「安全」とは誤嚥や窒息、脱水を予防することはもちろん、要介護者側が抱える複合的な問題を理解することが大切です。特に高齢者の場合、がんや脳卒中、認知症など多くの疾患を抱えている方がほとんどですから、要介護者の状態をきちんと把握してあげてください。次に「安楽」とは、要介護者が苦痛を感じず、効率的に楽しく食事ができるようにすること。3つ目の「幸福」とは、おいしさや満足感、食べる幸せを感じていただくことで、要介護者のQOLの向上を目指します。最後の「自立」は、数口でもよいので自分で食べられるようになることを目指して支援をすることです。これらを前提に、多面的・包括的・個別的な視点で、その人に合った食事介助を行ってあげてください。
 
そのうえで、まずはじめていただきたいのが口腔内をきれいにすることです。口の中が劣悪な環境では、気持ちよく食事を楽しむことができません。次に、要介護者が、安全かつ、疲れないような姿勢に調整してあげましょう。そして、ご本人が「おいしい」「幸せ」と思えるような食事を提供してあげてください。もちろん、いつでもそれが可能ではないことも理解しています。まだ十分に食事がとれないような方の場合、本人が嫌がっていても、とろみのついたペースト状のものを食べていただかなければいけないときもあるでしょう。そうしたときは、例えばご本人が食べたいものを目標にして、「これを食べられるように頑張ろう」と、一緒に乗り越えてあげてはいかがでしょうか。
 

要介護者の「食べる力」を可視化する
KTバランスチャートの活用

もうひとつ、経口摂取に取り組むうえで、ぜひ活用していただきたいのが「KT(口から食べる)バランスチャート(※1)」です。KTバランスチャートとは、食べる力を改善するために、どのようなケアが必要なのかを視覚的に判断できるよう作成したツールです。
 
全部で13の観察・評価項目(①食べる意欲②全身状態③呼吸状態④口腔状態⑤認知状態(食事中)⑥咀嚼・送り込み⑦嚥下⑧姿勢・耐久性⑨食事動作⑩活動⑪摂食状況レベル⑫食物形態⑬栄養)をそれぞれ1~5点スコア化して利用します。このチャートを使うことで、要介護者の、介助が必要な側面と良好な能力を可視化することができるのです。
 
当チャートは、医療・福祉の領域での評価ツールとして認められるために必要不可欠な、「信頼性と妥当性(※2)」もしっかりと検証されています。さらに、アメリカ老年医学会雑誌(Journal of the American Geriatrics Society)にも掲載されました。ぜひ、病院、施設、在宅といった場面で活用していただきたいと思います。実際、私が現在勤めているJA神奈川県厚生連伊勢原協同病院でも、このチャートを使って患者さんを診断していますが、経口移行率もかなり増えています。


※1 「KTバランスチャート」および「KTBC」は、特定非営利法人口から食べる幸せを守る会の登録商標です(商標登録第5947805号、5947806号)。
※2 信頼性とは、再現性を意味し、検査する人が変わってもあるいは同じ人が複数回行ってもある程度同じ結果になること。妥当性とは、そのツールを目的としているものを正しく評価できているのかどうかということ。
 ※KTバランスチャートの詳しい利用方法については、おすすめ書籍でも紹介している『口から食べる幸せをサポートする包括的スキル 第2版 KTバランスチャートの活用と支援』をご参照ください。
 

多職種の専門性を活かしながら
「チーム」で食事介助に取り組んでほしい

加えて、食事介助には「チーム」で取り組んでほしいと思います。私の病院でも医師や看護師、リハビリスタッフ、管理栄養士などの多職種でチームを組み、積極的にコミュニケーションをとりながら、少しでも経口摂取を選択できる可能性を探るようにしています。
 
例えば、以前なかなか食事を飲み込めない患者さんがいらっしゃいました。主治医に「消化器に何かあるかもしれない」「脳のMRIをとってほしい」と相談したところ、脳のMRIや内視鏡検査をしてくれました。結局どこにも異常はなかったのですが、栄養状態が悪くなっているので、経鼻経管で栄養や薬を入れつつ、経口摂取も継続していくということで主治医も了承してくれました。
また、お昼の時間には、管理栄養士と一緒に患者さんのもとを回りながら、食に対する意向を聞くようにしています。すべて叶えてあげることは難しいですが、できる限り患者さんのニーズにこたえられるようにという考え方を、多職種と共有できていることが心強いですし、とてもよいことだと感じています。
 
介護の現場でいえば、先日訪問した特別養護老人ホームでは、看護師、介護士、管理栄養士でしっかりチームを組んで対応していました。職種間のコミュニケーションもとても活発で、それぞれの専門性を活かして経口摂取に取り組む姿がとても印象的でした。

食べることは生きること
チーム一丸で取り組んだ食道がん患者さんのエピソード

このようにチーム一丸となって、患者さんの経口摂取を進められた例も数多くあります。
例えば、約1か月前に誤嚥性肺炎で入院された、80代後半認知症の男性がいらっしゃいました。彼は、半年前に食道がんと喉頭がんで入院していましたが、手術することも難しく、延命措置はしないというご家族の判断で、一度退院された患者さんでした。退院時は、食道にがんがあるため、ペースト状のものしか食べられない状態でしたが、今回搬送されたときには、食べることがさらに困難になり、食べてもほとんど嘔吐してしまう状況だったのです。チームとしても、お好きな牛乳や、何とか口から食べられそうなものをと工夫して食事介助をしましたが、ご家族側は、胃ろうなども造らず看取るという方向で意思が固まっているようでした。
 
しかし、私はどうしてもあきらめることができなかったのです。というのも、ステント(※3)治療を行えば、狭くなっている食道を広げることができます。そうすれば、食道の通過がよくなり、彼はもう少し形のあるものを食べられるようになる可能性があるはずだと考えたからです。これは延命処置という視点ではなく、最期までおいしく食べることをあきらめてほしくないという思いからでした。実は、すでに一度ステント治療をご家族に提案していたのですが、ご家族は「しない」の一点張り。それでもあきらめられなかった私は、主治医にお願し、ご家族に再度話をしてもらいました。すると、最終的に「処置を受けます」と決意してくださったのです。
 
結果的に、処置も問題なく完了し、嚥下造影でもきれいにおかゆや固形物が食道を通ったことを確認することができました。それまで全く食べられなかったおかゆや、少しだけ形のある魚や煮物も食べられるようになり、無事にご退院。娘さんもとても喜んでくださいました。退院時に「これで食べてね」と私が開発したKTフォークを彼に差し上げた際「ありがとう。ごはん、おいしいよ」と言ってくださったときは、思わず涙がこぼれました。口からおいしく食べられるわずかな可能性のために、医師をはじめとしたチームのみんなが動いてくれたからこそ、出せた結果だったと思います。
 
※3 体内の管状の部分を内側から広げるために使う器具。多くの場合は体に入れても害のない金属でできており、網目状の筒のような形をしている。

「どうすれば食べられるようになるか」を
考えられる看護師・介護士になってほしい

私たち看護師は、患者さんが一日でも早く元の生活に戻れるように支援することが仕事です。私は、その中のひとつに食事介助というものがあると考えています。よく、患者さん側の問題を理由に、食事介助がうまくいかないという話を聞きます。「なかなか口を開けてくれない」「飲み込んでくれない」「食べさせるとむせてしまう」など。それは、口から食べさせられない理由にはならないと思うのです。私たちが相手にするのは、身体的に問題を抱えている方が基本ですよね。そうした方々のために「ではどうすればよいか」を考えるのが私たち専門家の仕事ではないでしょうか。
 
看護師・介護士さんには、思いやりと慈しみの気持ちをもって、食事介助をしていただきたいと思います。もし要介護者が自分の両親だったら、子供だったら、自分自身だったらどのような介助をしてほしいと思いますか? 相手を置き換えて考えるだけで、介助の仕方は変わってくるはずです。「人生の最期まで食べることを楽しめること」を追求する姿勢を忘れず、適切で、愛ある食事介助ができる仲間がもっともっと増えてくれればうれしいです。一緒に、患者さん、ご利用者とその家族の幸せのために努力していきましょう。

小山 珠美氏
NPO法人 口から食べる幸せを守る会 理事長
看護師
 
【職歴】
1978 神奈川県総合リハビリテーション事業団 神奈川リハビリテーション病院 看護師
1987 同事業団 厚木看護専門学校 看護第一学科 専任教員
1995 同事業団 七沢リハビリテーション病院脳血管センター 看護師長
2001 同事業団 神奈川リハビリテーション病院 看護師長 
2005 愛知県看護協会 認定看護師教育課程「摂食・嚥下障害看護」主任教員
2006 社会医療法人社団 三思会 東名厚木病院 
2013 NPO法人 口から食べる幸せを守る会を設立
2015 JA神奈川県厚生連伊勢原協同病院 摂食機能療法室 現在に至る
 
著書に『口から食べる幸せを守る』(主婦の友社)、『口から食べる幸せをサポートする包括的スキル 第2版 KTバランスチャートの活用と支援』(医学書院)など。看護師としての仕事に従事しながら、全国各地で講演、研修を開催。2022年度にはガイドブック付の食事介助ビデオの販売も予定しており、適切な食事介助技術の普及を目指し精力的に活動している。
インタービューTOPへ
ページの先頭へ戻る