【アーカイブ配信中】大島敏子さんのトーク番組「としこの部屋」 地域活性化をはかる取り組みとは
2025/1/10
みんなの広場
2025/4
こうした長年の経験を通して、看護とは自然治癒力を回復させることだと思い至りました。医薬品や医療機器に依存せず、看護師の人間性と身体性によって、その人自身の治る力を引き出す。それこそが看護の本質だと気づいたのです。
医学の高度化が進む中、看護の現場では今でもお湯で体を拭くような原初的なケアを行っています。「それが何の役に立つの?」と疑問視する声もありますが、熱いお湯で体を拭いて気持ちがよくなれば、ナチュラルキラー細胞が活性化し、免疫力が高まります。副交感神経が優位になれば、痛みの緩和につながるでしょう。しかも、プロセスやアウトカムも安全・安心です。看護師は、医療の進化に追随する必要はありません。大がかりな医療機器がなくとも、患者さんの体をさする、全身を温かいタオルで拭くといった看護の力で高度医療を牽引できるのです。
今、タスクシフト/タスクシェアが盛んに喧伝(けんでん)されていますが、看護師はあくまでも看護を行うべきです。看護とは、医者の手助けをすることではありません。がんや認知症を防ぐために、生活習慣を整えるようセルフケアの動機づけをする。行動変容を促し、病気にならない体をつくる。それが看護のアプローチです。看護師は、病気を予防するための取り組みにもっとしっかり向き合うべきだと思います。
ナイチンゲールは、「看護は犠牲行為であってはなりません。人生の最高の喜びの一つであるべきです」という言葉を残しています。たくさんの喜びを感じるためにも、看護師は患者さんに寄り添い、より多くの看護を実践すべきです。「これくらいでいいでしょう」と出し惜しみすることなく全力を尽くせば、必ず喜びが返ってきます。私自身も、今なおよりよい看護のあり方を追い求める日々に喜びを見出しています。
今後、私が実現したいのは、病院での治療を終えたものの介護を受けられない方、終末期を迎えながら緩和ケア病棟に入らない方、認知症の方など、病院では受け入れられない患者さんのケアセンターをつくることです。また、未病のセンターもつくりたいですね。まだまだ実現したい目標があるので、これからも一つずつ困難を乗り越えていきたいです。
時代の変化とともに看護師に求められることがどんどん増えている昨今。一方で川嶋さんの言葉からは、どんなに時代が変わっても変わることなく必要な「看護師としての患者さんとの向き合い方」を学ぶことができました。看護のプロとは、高度な技術などではなく、患者さんとどのように向き合うべきかを理解し、実践できることかもしれません。
「ずっと仕事をしています」と楽し気に語ってくださった川嶋さん。取材・撮影中も背筋を伸ばし明瞭にお話される姿には、取材・撮影班一同も驚きの一言でした。どんな質問にも丁寧に答えていただき、取材以降のメール等のやり取りも迅速で的確。こうした姿勢が、川嶋さんの仕事が尽きない理由なのだろうな……とも感じました。看護の進歩を支え続ける大先輩とのお仕事、とても楽しく、光栄でした! 川嶋さん、ありがとうございました。
川嶋 みどりさん | 健和会 臨床看護学研究所 所長 日本赤十字看護大学 名誉教授 一般社団法人 日本て・あーて(TE・ARTE)推進協会 代表理事 1931年、韓国の京城(現・ソウル)にて生まれる。51年、日本赤十字看護大学の前身にあたる日本赤十字女子専門学校を卒業、日本赤十字社中央病院(現・日本赤十字社医療センター)に勤務。1995年若月賞、2007年フローレンス・ナイチンゲール記章、2015年山上の光賞受賞。『キラリ看護』、『看護の力』、『川嶋みどり 看護の羅針盤 366の言葉』、『長生きは小さな習慣のつみ重ね 92歳、現役看護師の治る力』など著書多数。 |
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