取り組みを現場に根付かせるコツは
「根付かない理由」を考え、トライし続けること
倉智
セル看護小委員会の役割は、セル看護の実施状況を正しく見ること。そして、現状からとらえた課題を解決するためには何が必要かを考えることです。課題から注力する取り組みを決めたら、今度はそれを現場へ発信します。しかし、発信しただけでは、現場がどれくらい取り組んでいるのかはわかりません。ですから、師長会などを利用して、現場の取り組み状況はもちろん、取り組めていない部署があればその理由や、どんなところがやりづらいのかなどを確認するようにしています。
▲セル看護実施中の看護師の様子。患者さんのそばで作業ができるので、すぐに変化に気づくことができ、コミュニケーションもとりやすい
日置
例えば、昨年注力していた「始業前情報収集ゼロ」の取り組みでは、「始業前の情報収集マニュアル」を委員会で作成しました。このマニュアルの手順通りに行えば、4人の受け持ち患者さんの情報収集が15分以内でできるというものです。
しかし、マニュアルを作ったからといって、看護師全員がすぐに取り組んでくれたかというと、決してそうではありませんでした。「自分のやり方で進めたい」という反発もあり、なかなか取り組んでくれない現状があったのです。そこで、「どうしたら現場スタッフが取り組んでくれるのか」を委員会で考え、マニュアルの手順を動画にして、全スタッフに見てもらうことにしました。結果的に、情報収集方法の周知につながり、昨年から今年にかけて本来の始業時間に情報収集を行うスタッフが増えてきています。
倉智
現場への周知、意識付けという点でいえば、やはり継続的な働きかけが必要だと感じています。導入から約10年が経過していますが、セル看護を実践する理由や意義は看護研修会などを利用して定期的に伝え続けています。
▲スタッフステーションに看護師の姿は一人も見られず、ナースコールもほとんど鳴っていなかった
セル看護で生まれた時間と心のゆとりが
多職種連携の強化にもつながった
小松
今年から、栄養士と師長で栄養カンファレンスを始めています。患者さんの食事摂取量や便の状態、アルブミン値などのデータを一緒に確認し、より正常な栄養状態で退院できるためにはどうすべきかを話し合います。カンファレンスで出てきた改善点などを師長から担当看護師に伝えていくという仕組みです。
日置
私たちが知らない患者さんの情報を、栄養士から教えていただくこともありますよね。例えば、患者さんやご家族からお聞きした食の嗜好をもとに食事内容を変更していただき、まったく食事ができなかった患者さんが食べられるようになったこともありました。お互いに情報を共有しながら、学び合いの時間にもなっていると感じます。
立石
とてもすてきな話ですね。改善推進本部では、看護部の皆さんの「チーム作り」のサポートに注力しています。例えば、以前病棟から「栄養のことを学びたい」とお話があったため、栄養部や歯科衛生室、リハビリテーション部などにも声をかけ、看護部と合同で「入院前の食事形態を目指す」というテーマのKaizen ワークショップを開催しました。
最近は「チームで解決する」という意識が根付いてきたと感じますが、看護師は、職業柄なのか「自分たちで解決しなければ」と考えがちなところがあると思います。だからこそ、私たちが多職種でチームを組んで取り組めるよう今後も積極的にサポートしていきたいと考えています。
倉智
多職種で一緒に患者さんを看ているという感覚は大事ですよね。本来、私たちには、患者さんが病気を治して退院できるだけでなく、退院後もこれまで通りの日常生活を送れるようにすることまでが求められていると思います。そのためには、看護以外にも、栄養や薬、リハビリに関する視点も必要です。医師だけが病気を治すわけではないですし、看護師だけが患者さんのケアをするわけでもありません。多職種あっての患者さんのケアなんですよね。セル看護を導入したことで、時間や気持ちにもゆとりが生まれ、そうしたことに気づき、一緒にやろうと思えるようになったのは、大きな変化だと思います。
▲上下関係なく、終始楽しそうにコミュニケーションをとる姿に、日ごろの風通しのよさを感じた
飯塚病院の改善活動×セル看護が
自発的に考え、行動できる看護師を育てる
倉智
現在の看護師の月平均残業時間は、約1時間というデータもあり、セル看護導入前と比べると残業時間は大幅に減少しています。セル看護の実践により生まれた時間的な余裕と、飯塚病院の改善活動がうまく組み合わさり、「考えられる看護師」が増えていると感じます。
中山
たしかにそうですね。何気ない立ち話の中でも「もっとこうしたら患者さんのそばにいられるんじゃないか」、「ここがやりづらいから、こう改善したらいいかも」という意見が自発的に出てくるスタッフもいます。改善の意識がスタッフに根付き、それが患者さんへのケアにも生かされていると思います。
日置
新人の時から、EK活動で改善案を提案できるのがよい経験になっているのだと思います。EK活動を通して、若手社員でも意見を発信でき、自分の意見で現場を変えていける経験は改善活動を進めるモチベーションにつながりますよね。
立石
そう言っていただけるとうれしいです。EK活動は、勤続年数に関係なく、改善したいと思ったことを発信できる活動なので、自分たちで何かを変えられるという経験は自信にもつながりますよね。改善推進本部としては、実践した改善活動を学会で発表してくれる若手の看護師もいるので、それもとてもうれしいです。
▲参考:飯塚病院の新人看護師の離職率の推移(資料提供:飯塚病院 看護部)
管理者も現場スタッフも「楽しめる」ことを大切に
セル看護をアップデートさせていきたい
日置
改善活動をしないと、忙しさ、大変さはなくなりません。将来も楽しく働くために、改善活動は必須だと思います。
小松
私たち自身、楽しく活動していますよね。私たちが楽しくないとスタッフも楽しめないと思いますし、スタッフが楽しめることが、取り組みの浸透を加速させ、よりよい看護の提供にもつながるのだと思います。
倉智
今後も、セル看護を継続していきながら、飯塚病院のすべての患者さんにとって「本当にこの病院を選んでよかった」と思っていただけるような看護を提供したいと思っています。そのためには、先取りの看護を看護師一人ひとりが実践していかなければならないと思いますし、管理者もそうした看護に取り組めるよう現場をサポートしていく必要があります。私たちセル看護小委員会は、それを現場のスタッフと管理者の双方が楽しみながらやり遂げられるように、今後もセル看護のアップデートを進めていくことを目指しています。
写真:笹井 真理