働き方改革関連法に伴う現場の混乱 法律をきちんと理解し、確実な対応を
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働き方改革関連法が既決したのが昨年の6月、そして今年の4月に施行となりました。現場で忙しく働く皆さんにとって、新たな法律を取り入れるための準備期間は非常に少なかったと思います。実際、私たち日本看護協会の労働政策部のもとにも、法の解釈や、実施にあたっての疑問など、多くの質問や意見がよせられています。今回は、その一部をご紹介しましょう。
◆研修時間の労働時間の取扱いについて
Q
eラーニング受講時間の労働時間としての扱いは、どのように考えればよいのか。
A
「参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習などを行っていた時間」は労働時間として扱う必要があります。eラーニングを利用しての研修についても、業務上受講を指示されたものであれば、受講に要した時間は当然労働時間をみなされます。通常の勤務時間内で受講することが望ましいのですが、勤務時間外や職場外の場所での受講については、労働時間として申請する職場のルールを決め、適切に運用することが望ましいでしょう。
◆勤務間インターバルの確保について
Q
インターバル時間の捉え方は、設定された勤務時間ではなく、例えば超勤したらその時間からの計算になるのか。
A
超勤(時間外労働)が発生した場合にも、勤務終了時刻から次の勤務開始時刻までの間が「勤務間インターバル」となります。看護職員などの交代制勤務者では、まず勤務計画(勤務表決定)の時点でインターバル確保を念頭に置いたシフト編成とするほか、時間外労働が発生した場合の対応をルール化します。
◆「同一労働同一賃金」の考え方について
Q
同一労働同一賃金に関して、看護管理者として何をどのように整備すればよいのか。
A
今回の法改正がめざす「同一労働同一賃金」は、正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との不合理な格差の解消を求めるもので、令和2年4月より施行されます。(中小企業は令和3年4月)
正社員と非正規雇用の正社員の間で、賃金の決定ルールに相違がある場合、「職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的、具体的な相違に照らして不合理なものであってはならない」(厚生労働省ガイドライン)とされています。したがって、職務の内容や評価の「ものさし(決定基準)」具体的な評価項目、賃金等級表などを具体的に示し、客観的で公正な評価に基づき決定していることを明らかにしたうえで、評価基準に沿った人事・賃金制度の運用を図る必要があります。
看護部門では、例えば「ラダー」によって、各段階で求められる「看護実践能力」「任務遂行能力」「自己教育能力」を規定し、客観的な判断基準(役割行動の進行度合い)による評価と処遇への反映の仕組みを整え、運用することが有効と考えられます。日本看護協会「看護職のキャリアと連動した賃金モデル」(小冊子)も参考としてお役立てください。
※「看護現場の労働管理~働き方改革を受けてよくあるご質問と対応の解説~」日本看護協会 労働政策部看護労働課より引用
本会は、法律のシステムやよりよい働き方の仕組みを、現場へと確実に広げていくこともミッションの一つだと考えています。働き方改革関連法に伴い、ほかにもよせられたご質問には本会HPでも回答しています。ぜひ一度目を通していただき、自分の病院や施設での働き方改革の推進にお役立てください。
師長から始める働き方改革が 現場スタッフの働き方を変えていく
看護職の働き方改革を進めていくうえで、キーマンとなるのは師長さんだと思います。ここではっきりさせておきたいのが、「管理監督者」がどのような人に該当するのか、ということです。看護職でいえば、現場の師長さんを思い浮かべる方も多いでしょう。師長さん自身も、「管理者」という自覚をもって働いている方がほとんどかもしれません。確かに、現場のスタッフをまとめる存在ではありますが、労働基準法上の「管理監督者」に係る判断基準に当てはまらなければ、師長さんは「管理監督者」には該当しないのです。
本会の「ナースのはたらく時間・相談窓口」(協会ニュース2019年2月号)には、ある師長さんから下記のような相談がよせられました。
【相談】
病棟の看護師長です。人員不足のため時間外勤務が週20時間を超え、 疲労が蓄積し健康が不安です。管理職手当がつくからと、残業代は支給されません。 ※「看護現場の労働管理~働き方改革を受けてよくあるご質問と対応の解説~」 (日本看護協会 労働政策部看護労働課)より抜粋
約半数が受けている「ハラスメント」問題 国として初めての調査が決定!
そして、本会では、働き方改革の推進とともに、看護職がいつまでも、安全・安心に働ける職場づくりをめざして、「ハラスメント」に対しても、より一層精力的に活動していきたいと考えています。
私たちが、平成29年に行った「看護職員実態調査」によると、「過去一年間に暴力・ハラスメントを受けた経験がある」方は、52.8%にのぼります。さらに、身体的攻撃の加害者の94.5%が「患者さんから」だったのです。つまり、およそ半数以上の看護職が患者さんから身体的な暴力を受けているという結果となったのです。現場からも、「本当に困っているのは、ハラスメントである」という声がいくつも届いていました。
さらに、平成30年の「過労死白書」の調査でも、患者さんからのハラスメントによる影響が顕著にあらわれていたのです。調査によると、看護職が労災認定を受ける事案として最も多かったものが精神障害でした。その発病に関与したと考えられるストレス要因の約3割が、患者さんからの暴言・暴力によるものだったのです。
これを受けて、本会では平成30年に「看護職の健康と安全に配慮した 労働安全衛生ガイドライン~ヘルシーワークプレイス(健康で安全な環境)を目指して~」を公表。引き続き今年度も、看護職の労働環境の改善の最重要項目として、取り組んでいきます。さらに今年は、国として初めて「病院における看護職が受けている患者さんからの暴力ハラスメント」の実態調査を実施することとなりました。この調査を受けて、ハラスメントに対する指針の作成も決定しています。これは、非常に画期的なことだと感じています。働き方改革に加え、看護職の労働環境の改善は、着実に一歩一歩進んでいるのです。
看護職の働き方が変われば、看護の質も確実に上がります。そうすれば、十分な看護ケアを提供することができ、患者さんの満足度も上がっていくでしょう。本会では、今回の法の施行によって、現場でどのような変化が生じているのかを把握するために今年大規模な労働実態調査を行う予定です。これから、看護職の働き方も少しずつ変わっていくでしょう。今後も現場に寄り添いながら、看護職が健康に働き続けられる労働環境を模索し、提案し続け、看護職の働き方改革を先導していきたいと思います。
看護師長として管理職手当をもらっていても、①部下の人事に関する権限がある②出退勤の自己裁量がある③職務に見合う賃金を受けている、という全ての要件をみたさなければ、「管理監督者」としてはみなされず、一般スタッフ同様に、労働時間の制限や時間外勤務の手当てが必要となります。つまり、師長さんも労働者であるということです。ですから、現場の師長さんには、ぜひ、ご自分の働き方から見直してほしいと思います。そうすることで、現場のスタッフに働き方を見直すきっかけをつくってあげてほしいのです。「師長である私から働き方改革を始めるんだ」という気持ちで、現場の働き方改革の先陣を切ってください。