長い歴史の中で、着実に積み上げてきた信頼と実績を誇る岡山大学病院。“伝統”という確かな土台を礎に、臨床研究中核病院、橋渡し研究支援拠点、がんゲノム医療中核拠点などの役割をも担い、先進医療の発展に尽力しています。従来の大学病院の在り方に固執することなく、時代に即した“革新”を起こし続ける同院の151年目の挑戦とは? 病院長の金澤 右氏に、「働き方改革」「多角経営」「データ活用」をキーワードに掲げた“3つのチャレンジ”についてお話しいただきました。
2021/3
長い歴史の中で、着実に積み上げてきた信頼と実績を誇る岡山大学病院。“伝統”という確かな土台を礎に、臨床研究中核病院、橋渡し研究支援拠点、がんゲノム医療中核拠点などの役割をも担い、先進医療の発展に尽力しています。従来の大学病院の在り方に固執することなく、時代に即した“革新”を起こし続ける同院の151年目の挑戦とは? 病院長の金澤 右氏に、「働き方改革」「多角経営」「データ活用」をキーワードに掲げた“3つのチャレンジ”についてお話しいただきました。
岡山大学病院 病院長
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2021年となり、私たちの歴史は151年目へと歩みを進めます。ここからは、岡山大学病院による〝これからのチャレンジ〞についてお話しいたします。
チャレンジ一つ目は、「働き方改革」です。当院が働き方改革に着目したのは4〜5年前のことです。当時課題としてあったのが、女性医師の働き方についてです。それに対して、復職支援のプログラムを組んだり、時短勤務を実施したりする中で、「働き方」ということへの当院の基盤ができ上がっていきました。その後、各職種が集まるワーキンググループをつくり、ガイドラインの作成に着手し、そこで一気に働き方に対する意識が高まったと思います。2019年には、働き方改革の推進や、特に女性医療人のキャリア支援に取り組む「ダイバーシティ推進センター」を設置し、非常に優秀な女性医師にセンター長を務めてもらっています。
医師の働き方に関しては、スマートフォンを活用した勤怠管理の取り組みをスタートしました。院内の位置情報をもとに自動的に勤怠管理ができる仕組みになっており、厳格化された医師の労務管理への対応の負担軽減と業務の効率化につながるものと考えています。スマートフォンは1,000台ありますが、今のところ医師のみが対象で500台ほど使用しています。スマートフォンは、翻訳ソフトや医療辞書といったさまざまな医療系ソフトウェアを取り込むことができるため、将来的に全職員がスマートフォンを所有し、こうした機能を日常的に使いこなすことができるようになれば、情報共有などの面にも効果があるのではないかと考えます。コストの問題もあるので、まずは医師に、そしてネクストステップを考えていきたいと思います。
チャレンジ二つ目として、私自身も強く打ち出したいと考えているのが、診療報酬以外の収入増についてです。今は急性期病院の利益の減少、医薬品価格の高騰などを背景に、診療報酬で利益を上げることが非常に難しい時代です。加えて、地方は特に顕著な人口減少の問題があり、患者さんの数は完全に頭打ち。こうした状況下で医療収入だけに頼るのは、大学病院にとってすでに限界にきていると私は考えます。これからは、診療報酬以外でどのように収入を得るのかが鍵になると思っています。
例えば当院では、現在建設中の新しいビルの最上階に「オープンイノベーションフロア」を造る計画があります。そこにはさまざまな企業に入居していただき、新しい医療技術や医薬品の研究開発などを行っていただけるようにする予定です。ビルは大学のスペースなので、賃貸料という形で収入を得ることができるようになります。もう一つ考えているのが、「クラブ150」というクラブの新設です。これは、一定以上の寄付金を支払っていただいた特定の方に対して、検診や健康相談などのヘルスサポートを行う取り組みです。大学病院には非常に優秀な人材が集まっているので、その人材を活用しない手はありません。それから、バイオバンクの有効活用も進めていきたいです。当然、患者さんの了承を得たうえでのことですが、当院で集積されたさまざまなデータを企業に提供し、そこから収入を得る仕組みも考えています。
従来の大学病院とはイメージが異なるかもしれませんが、私は、大学病院も時代によって変わればよいと考えています。もちろん医療と看護をいかにして磨いていくかということがベースにありますが、それは当院の職員の能力からすればしっかりと対応できると思っています。しかし経営全体からすると、少子高齢化の流れの中では医療収入だけでは、先ほどもお伝えしたようにもう限界があります。病院も「多角経営」という視点をもっていないと、これからの病院運営は成り立たないだろうと思っています。
今後の医療の方向性には、いくつかのキーワードがあると思います。ビッグデータ、データアナリシス、AI、IoT、ロボット、遠隔医療……。これらをどう発展させるのかということも、これからの医療においての重要な鍵となります。
三つ目のチャレンジとして、私がとりわけ注目しているのが「データ活用」です。例えば、看護部を例にお話ししますと、当院では2021年の春に新しい看護部長が就任します。年齢が45歳と比較的若いのですが、選考委員会では彼女がデータアナリシスに非常に長けている点に注目をして選考しました。これからの看護部に期待することは、経営に積極的にコミットしていただくことです。あらゆる情報を収集し、さまざまな角度からの数値を用いて、看護部のみならず病院全体の動向を分析し経営に参加してほしい。現場の看護師さんからよいアイデアが提案されたら、病院の経営にどんどん取り入れてほしいと思っているのです。
ケアコムさんが、ナースコールの呼出回数や応答時間などに着目したデータサービスを提供されていることはお聞きしています。これからの時代、それが当たり前といいますか、データを取らずしてよい看護の提供はできません。病院の中で看護師がどんな風に動いているかといったデータを分析することで、いかにムダがあったのかなどがわかるはずです。新しい看護部長には、「これからの時代の看護部」として、岡山大学病院の新たな形を発信してくれることを期待しています。
ポストコロナという言葉がよく使われますが、2021年は、IoT、遠隔医療など、その他のキーワードも加速する年になりそうですね。私個人の生活をみても、この1年で大きく様変わりしました。例えば、これまで年間50回以上あった出張が、今ではオンラインミーティングが格段に増え、移動時間がなくなりとても助かっています。当初は「Face to Faceで話せないのはどうなんだろう?」と思っていましたが、だんだんと慣れてきました。学会もオンラインを活用してハイブリッドなスタイルで実施されるようになり、今までIoTをしっかりと使いこなせていなかったことに気づかされます。また、私は放射線科医なので、テレラジオロジー(遠隔放射線画像診断)を行っていますが、こうしたものが今を機に活用が進み、在宅でも病院と同じような医療の質を担保できるように広がっていくことでしょう。ある意味、大きなチャンスともいえます。
チャンスといえば、私自身の生活スタイルもかなり健全なものになりました。かつては、週の半分は外食だったのですが、今は毎晩必ず自宅へ帰って、家族と一緒に夕食を食べています。土曜の朝は10キロの散歩をしたり、日曜に2時間テニスをしたりしています。テニスは50歳を過ぎてから始めたのですが、けっこう楽しくて。いろいろな仲間とやっています。そんな生活に変わったおかげで、体重は4キロほど落ち、肝機能の数値も十何年か振りに正常化しました。フィジカル面が向上したのは非常にうれしかったですね。しかしその一方で、メンタル面は新型コロナの影響もあってかなりの緊張感が続いており、張り詰めた生活をしているといわざるを得ません。
そのような状態とはいえ、私は常にホスピタリティを忘れないようにしたいと思っています。患者さんは辛い思いをして病院に来られるわけですから、私たち医療従事者がいかにして患者さんと同じ目線で医療を提供できるかということが大事だと思います。「患者さんにリピーターになってほしい」というと語弊があるかもしれませんが、これが私個人の端的な目標です。もちろん病気が治って「再び」ということがないのが望ましいですが、これだけ長生きする時代ですから病院へ行く機会はままあります。ですから、当院を一度受診した方に「また診てもらうなら岡大病院がいい」と思っていただけるような病院にしていきたいですね。そのためにも、ホスピタリティを忘れずに日々の病院運営にあたりたいと思っています。
岡山大学病院 病院長
1981年岡山大学医学部卒業後、倉敷成人病センター、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンター、岡山大学医学部放射線医学教室教授などを経て、2011年岡山大学病院副病院長に就任。2017年より現職。
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