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2021/7

医療現場を支える縁の下の力持ち 看護補助者の活躍を広げるには何が必要か

看護師のサポート、患者さんのお世話など、幅広い業務で医療現場を支える看護補助者。今や病院にとってなくてはならない存在ですが、その一方で人員確保や教育、看護師との連携など、さまざまな課題も抱えています。看護補助者の活用を促すために、必要な教育プログラム、看護師側の心がまえについて、川崎幸病院 副院長兼看護部長 佐藤久美子氏にお話を伺いました。

佐藤 久美子

社会医療法人財団石心会 川崎幸病院 / 副院長兼看護部長

看護師との協働で、チーム医療を実現
患者さんの日常を支援する看護補助者

看護補助者は、今や病院運営には欠かせない存在です。国家資格を持たないため医療行為は行いませんが、入院患者さんの食事介助やベッドメイキング、外来患者さんの誘導や書類整理、手術室の掃除や器具の滅菌など、幅広い業務で医療現場を支えています。

私は看護師として川崎幸病院に勤務するかたわら、2008年から潜在看護師の復職支援セミナーで講師を務めています。この活動を続けるうち、医療現場の人手不足を補うには潜在看護師だけでなく、看護補助者のサポートも必要だと強く感じるようになりました。

ここ数年、看護補助者の活用が注目を集めていますが、その最大のきっかけは、2010年に診療報酬制度が改定され「急性期看護補助体制加算」が新設されたことです。その背景にあるのは、団塊世代が後期高齢者となり、医療や介護などの社会保障費が急増する「2025年問題」でした。懸念されるのは、もちろん財政面だけではありません。少子高齢化によって労働人口が減れば、看護師の数も減少します。つまり、患者さんは増えるにもかかわらず、看護師は不足するという事態が起きてしまうのです。

そのため医療現場では、さまざまな職種のスタッフが業務を分担する「チーム医療」の重要性が叫ばれるようになりました。看護師は、医療やケアに特化して専門スキルを発揮する。一方看護補助者は、患者さんの日常生活をサポートする。こうした役割分担を行わなければ、病院運営が成り立たなくなってしまいます。このような流れを受けて診療報酬制度が改定され、看護補助者の活用が促進されていったのです。

 

看護補助者の確保が課題
給与の低さと一定しない雇用形態が要因に

とはいえ、制度改定から10年以上経っても、看護補助者の人数はそこまで大きく増えていません。日本看護協会のアンケートによると、9割以上の病院で看護補助者を配置していますが、25対1急性期看護補助体制加算を取得できている病院は、全体の3割程度(※1)。夜間に看護補助者を配置している病院は、ほとんどありません。本来なら看護補助者に託したい業務も、看護師が賄っているのが現状です。最近は介護福祉士を採用する病院もありますが、やはり介護施設に就職する方がほとんど。当院でも看護補助者の確保に苦慮しています。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、どの病院でも、看護補助者の人員不足に悩んでいるのではないでしょうか。

看護補助者の確保が進まない理由は、主に2点あります。ひとつは、報酬の問題です。患者さんと接する大切な仕事ではあるものの、残念ながら看護補助者の給与はそこまで高くありません。そのため、どうしても応募者が集まりにくいという事情があります。もうひとつは、病院や施設によって雇用形態が異なること。病院に直接雇用されるケース、派遣会社と契約を結んだ看護補助者が病院に派遣されるケース、業務委託を行うケースと、雇用形態はさまざま。そのため、思うように人員を集めきれない、人の入れ替わりが激しいという問題が生じています。

日本看護協会のアンケート調査によると、看護補助者と業務を分担することで「患者さんに対する観察頻度が増えた」「患者さんやご家族とのコミュニケーションが増えた」という声が看護師から上がっているそうです。しかし、それも看護補助者を配置している病院の半数程度(※2)。今後看護補助者の数が増え、上手く活用していくことができれば、業務分担がさらに進み、看護師もより働きやすくなるのではないかと思います。

※1 出典:平成26年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査速報(看護師長調査)
※2 出典:nursingBUSINESS2017Vol.11no12

研修や実務を通じて養う
職業倫理と医療安全に関する知識

看護補助者活用の課題としてもうひとつ挙げられるのが、採用後の教育です。現在、ほとんどの病院では日本看護協会が配布しているガイドラインや研修テキストに沿って指導を行っていると思います。多くの場合、院内の教育委員会が、看護補助者に対する研修プログラムを企画・運営しているのではないでしょうか。当院では、教育委員会が年間スケジュールを組み、30分~1時間のプログラムを細かく設定し、業務時間内に研修を行っています。その後は、現場経験を通じ、先輩の看護補助者や看護師から細かいルールを教えてもらいながら業務を学んでもらいます。

看護補助者の教育において大前提に考えなければならないのは、看護補助者は医療や看護について専門的に学んできてはいないということです。こうした前提のうえで、注意すべき点は2点あります。
ひとつは、医療従事者としての職業倫理です。看護補助者が接するのは、病気を持つ方や体が不自由な方。健康ではない方を相手にする仕事なのだと、常に意識してもらうことが大切です。また、個人情報の保護も重要です。一般企業にも守秘義務はありますが、病院では特に厳格な守秘義務を課されます。地域密着型の病院では、入院患者さんも面会者も近所にお住まいの方です。院内で得た情報を外部に持ち出し、「〇〇さんが入院している」と話すなど、あってはならないこと。軽い気持ちで噂することのないよう、徹底する必要があります。

もうひとつは、医療安全や感染防御に関する知識をつけてもらうことです。医療の専門知識がない看護補助者には、マスクや医療用手袋の着脱方法から、徹底的に指導する必要があります。例えば、手袋をパチンと勢いよく外すと、表面についたウイルスが浮遊するので危険です。特にコロナ禍においては、自分が感染しない、患者さんに伝染さない方法を一から教える必要がありました。当院の場合、病院全体で感染防御の研修を行い、看護補助者にも参加してもらいました。

すでに教育を受けてきた看護師でさえ、清潔・不潔の区分を徹底するのは難しいものです。それが看護補助者なら、なおのこと。「一処置一手洗い」と言われても、目に見える汚れがついてなければ手を洗わずにすませてしまうこともあるでしょう。また、感染性廃棄物は内容物を詰め込みすぎてはいけませんが、隙間に廃棄物を押し込もうとする方も。まだ空いているのにもったいないと思うのかもしれませんが、そもそも容器に手を突っ込むこと自体、大変危険です。こうした事態を防ぐため、看護管理者が院内をラウンドする際には看護補助者が不適切な行動を取っていないか確認し、見つけ次第注意する必要があります。また、もしかしたら他の看護補助者も似たようなことをしている恐れがあるため、「次の研修ではもう一度感染防御について教えよう」と教育プログラムを見直し、継続的に啓発することが大切です。

看護補助者は、ともに仕事をする対等な仲間
看護師の意識を変えることも重要

看護補助者と働くうえで、看護師も気を付けなければならないことがあります。それは看護師と看護補助者を上下関係と捉えるのではなく、一緒に仕事をする対等な仲間だという意識を持つことです。看護師が看護補助者に対し、上から目線でものを言うのはもってのほか。病院全体で誤った関係性を是正しなければ、お互いに気持ちよく仕事ができないと思います。

また、看護補助者の人材育成システムを構築し、やりがいをもって働いてもらうことも重要です。多くの病院では、看護師が個々の能力に応じてステップアップできるよう、キャリアラダーを導入しています。しかし、看護補助者のキャリアラダーを用意している病院はごくわずか。「このように段階を踏めば、看護補助者としてスキルアップできます」と道筋を示したうえで教育すれば、定着率も上がるのではないかと思います。看護補助者に気持ちよく働いてもらうためにも、看護師側の意識を変えること、そして看護補助者の教育システムを構築することが必要だと考えます。

後編はこちら

佐藤 久美子

社会医療法人財団石心会 川崎幸病院
副院長兼看護部長

東京医科歯科大学医学部附属看護専門学校卒。1994年、川崎幸病院就職。2008年より看護部長、2015年より現職。2005年、認定看護管理者取得。平成26年度川崎市保健衛生功労者表彰、平成28年度神奈川県看護協会長表彰、令和元年日本看護協会長表彰。著書に『ナース発 東日本大震災レポート』『看護手技 あんしんこれだけポケットブック』『脳神経疾患病棟の看護技術ブック』がある。

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