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2021/7

チーム医療に欠かせない看護補助者 看護師との協働を促す各病院の取り組み

患者さんの日常を支援する看護補助者は、看護師にとって欠かせないパートナーです。看護補助者との業務分担が進めば、看護師も患者さんのケアにより一層集中できるでしょう。では、看護補助者の活躍の場を広げるために、どのような施策が考えられるでしょうか。後編では、看護補助者の活用を促す取り組み、各病院の先進的な事例を紹介します。

佐藤 久美子

社会医療法人財団石心会 川崎幸病院 / 副院長兼看護部長

患者さんを見守り、医療安全を高める
看護補助者のきめ細やかなサポート

前編では、「看護師と看護補助者は上下関係ではなく、一緒に仕事をする対等な仲間」という話をしました。これは、チーム医療のベースとなる考え方です。よりよい医療、ケアを提供するには、医師、看護師、看護補助者、事務系スタッフなど一丸となって患者さんに関わることが重要です。全員が横並びの意識を持ち、互いに連携しながらそれぞれの職務を行ってほしいと思います。

看護補助者がチームに加わると、患者さんにとっても大きなメリットがあります。そのひとつが、密なコミュニケーションを取れること。急性期病院の看護師は常に忙しく、患者さんのベッドサイドで話を聞く時間はなかなか取れません。でも、普段から患者さんの身の回りのお世話をする看護補助者になら、患者さんも悩みを相談したり、愚痴をこぼしたりできるのではないでしょうか。ベッドメイキングを行う時、検査室まで付き添う時など、ちょっとした時間にお話をすれば、患者さんの心のケアにつながります。

また、患者さんを見守る目、助ける手が増えると、医療安全面でもメリットがあります。看護師は、一人の患者さんを24時間見続けるわけにはいきません。他の患者さんのケアをしている時に、運動機能に不安がある患者さんを看護補助者に見てもらうだけで、廊下でつまずくことが減ったり、身体抑制をせずにすんだりします。

もちろん、看護補助者と業務を分担することは、看護師にとってもプラスに働きます。多くの看護師は、患者さんの観察やバイタルチェック、注射といった医療行為を焦らずじっくり行いたいと考えているでしょう。それ以外の業務を看護補助者に担ってもらえたら、安心して自分の仕事に集中できます。看護補助者のサポートは、看護師の心のゆとりにもつながるのではないでしょうか。

 

看護補助者と看護師の連携を深めるために
ソフトとハード両面で取り組む各病院の施策

看護補助者と看護師が円滑に業務を進めるには、両者の連携、情報共有がカギになります。多くの病院では、看護師の申し送りに看護補助者の代表者が加わり、その日の重要事項を他のスタッフに伝えていることでしょう。しかし、看護補助者には、看護師における「看護記録」のような情報伝達システムがありません。看護師の指示を受けて業務を行い、口頭で報告するケースがほとんどです。看護補助者と看護師の情報共有をどのようにシステム化していくかが、今後の課題ではないかと思います。では、そんな中でも先進的な取り組みを行う病院について、事例を紹介します。

看護補助者と看護師が議論するカンファレンス研修

神奈川県のA病院では、看護補助者のスキルアップを目指すカンファレンス型研修を行っています。これは、「食事介助中の観察」「排泄物・皮膚の観察」などのテーマに基づき、看護補助者と看護師がディスカッションする研修です。対話を通じて、看護補助者がどのような考えでどんな行動を取ったのか、誰に報告したのかなどが浮き彫りにされ、看護補助者の観察力、報告力アップにもつながります。また、看護師との信頼関係も築かれ、連携もスムーズに。看護補助者への権限移譲の幅も、広がっていく可能性が生まれます。看護補助者も「自分たちは頼りにされている」と承認欲求が満たされ、仕事に対するやりがいにつながるでしょう。時間と労力がかかるため、ここまでできる病院は少ないかもしれませんが、看護補助者の定着率向上にもつながる施策だと思います。

やる気を高める「ナラティブ」

モチベーションを高める施策としては、「ナラティブ」も効果的だとされています。ナラティブは、自身の看護体験を語り、周囲と共有する取り組みです。看護師の研修としてナラティブを取り入れる病院が増えていますが、看護補助者が同様の取り組みを行うケースも見られます。私が見学した時は、「患者さんが退院する時、病院の入り口まで荷物を運んだらとても感謝された」と一人が語ると、他の看護補助者からも「私も患者さんに『ありがとう』と言われて感動した」「看護師長に褒められてうれしかった」というエピソードが次々に出てきました。みんなで体験を語り合うことで、仕事の楽しさ、やりがいを感じられるという効果があります。

看護補助者が活躍できる組織づくり

看護補助者の活躍を促すため、組織改革を行う病院もあります。一般的な病院では、看護部の中に病棟、外来、手術室という部署があり、それぞれに看護補助者が在籍しています。しかし、一部の病院では、看護部とは別に介護・医療支援部を設けて看護補助者の採用や教育を行っています。この病院では、看護補助者は常に同じ部署に配置されるのではなく、介護・医療支援部がその都度人員を采配しているそうです。こうした組織体制であれば、看護補助者は幅広い業務に携わることができ、スキルアップも進むのではないかと思います。とはいえ、ある程度の看護補助者数が確保できていることが前提の施策であり、すべての病院にとって有効とは限りません。病院の規模や機能、看護補助者の人数によって、柔軟に看護補助者の活用を考えるべきだと思います。

看護補助者の権限を広げる取り組み

資格を持たない看護補助者は、医療行為に介入できません。それでも業務内容を丁寧に見直し、役割分担を変えることは可能です。例えば長野県のある病院では、看護師と看護補助者が話し合い、バイタル測定を看護補助者が行うことになりました。体温や血圧から患者さんの状態を判断するのは、本来看護師の役目です。しかし、体温計で熱を測るだけなら看護補助者でもできるはず。そこで、数値を測定して報告するのは看護補助者、数値データから判断を下すのは看護師や医師という分担に変えたのです。病院によって考え方は違うでしょうが、どこまで看護補助者に委ねるか、もう一度見直す意義はあると感じます。

当院でも、看護補助者の業務を見直した例があります。入院患者さんの食事を下げる時、看護補助者は患者さんがどれくらい召し上がったか、摂取量をチェックします。看護師はその報告を受け、電子カルテに記入。とはいえ、看護師が忙しいとなかなかつかまらず、報告し忘れるケースが見受けられました。そこで、看護補助者も電子カルテの食事欄を入力できるようにしたのです。たったこれだけのことでも、電子カルテの閲覧・入力権限の見直し、守秘義務などの問題があり大変でしたが、結果的に患者さんの状態を細かく把握できるようになりました。

委員会活動への参加

看護補助者にやりがいを感じてもらうため、院内の委員会に参加してもらうケースもあります。当院の場合は、看護補助者が美化委員会に参加し、院内の美化活動について施策を考えてもらいました。特に効果があったのは、病棟ごとに整理整頓ランキングをつける取り組みです。こうした仕掛けがあると、楽しみながら活動してくれますし、看護師との連携も深まりました。

 

看護補助者と良好な関係を築けば
医療やケアの質向上にもつながる

私が「看護補助者の活用」というテーマでグループワークを行うと、看護師が看護補助者に対して不満をもらす場面をよく見かけます。でも、看護補助者は看護師のように、学校で医療や看護について学んできた方々ではありません。看護師側も、看護補助者との協働について改めて考えてもらえると、よりよい関係を築けるのではないかと思います。双方が気持ちよく仕事できれば、患者さんにもプラスに働き、医療やケアの質も向上するでしょう。

医療現場は役割分担が進み、今や看護補助者がいてくれなくては看護師の仕事も成り立ちません。看護師側は信頼や感謝を示す必要がありますし、看護補助者側も「私たちは頼りにされているんだ」と自信をもって仕事に臨んでもらえたらうれしいです。

看護補助は、医療支援を担う大切な業務です。看護補助者も自分たちの仕事に誇りを持ち、看護師や介護福祉士のようにひとつの資格になるくらい、存在感を高めていただけたらと思います。発信力の高い若手看護補助者の、さらなる活躍に期待しています。

佐藤 久美子

社会医療法人財団石心会 川崎幸病院
副院長兼看護部長

東京医科歯科大学医学部附属看護専門学校卒。1994年、川崎幸病院就職。2008年より看護部長、2015年より現職。2005年、認定看護管理者取得。平成26年度川崎市保健衛生功労者表彰、平成28年度神奈川県看護協会長表彰、令和元年日本看護協会長表彰。著書に『ナース発 東日本大震災レポート』『看護手技 あんしんこれだけポケットブック』『脳神経疾患病棟の看護技術ブック』がある。

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