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2024/3

【イベントレポート】日本看護サミットでの事例紹介から、看護職の生涯学習支援を考える

【イベントレポート】日本看護サミットでの事例紹介から、看護職の生涯学習支援を考える

日本看護協会が主催する「日本看護サミット2023」のレポート前編では、サミットの概要やプログラム内容、高橋弘枝会長によるサミット宣言などをお伝えしました。後編となる今回は、看護職の生涯学習支援にあたっている施設によるリレートークと討論をレポートします。

看護職の生涯学習支援の具体的な事例を紹介

プログラムのなかでNursing-plaza.com編集部が着目したのは、「施設・組織の枠を超えた生涯学習支援」と題したリレートークです。5つの医療機関や福祉施設、職能団体、教育機関で実際に行われている生涯学習支援の取り組みが紹介されました。その一部をご紹介します。

ポートフォリオを活用した新人看護師へのサポート

「テーマ:自律的なキャリア形成のために必要なこと~ポートフォリオ~はじめの一歩」
(医療法人社団総合会 武蔵野中央病院 看護部長 大西 潤子氏)

東京都にある武蔵野中央病院は、2020年度から新人看護師を対象にポートフォリオの作成を義務づけています。ここでいうポートフォリオとは、職員が自身の目標を達成するための具体案や活動実績をまとめたファイルのこと。ポートフォリオを導入した成果とは?

「ポートフォリオは、自律的なキャリア形成のために『自分はどうありたいか、いかに自己実現したいか』という意識を持ち、ビジョンとゴールを定めて取り組めるものです。ですが、一人で取り組むのは難しく、迷ったときに対話する支援者が必要です。また、ポートフォリオによって自分の成長を俯瞰でき、さらなる課題発見にもつながります」(大西氏)

新人看護師の方々が作成したポートフォリオは、先輩看護師も手に取れる場所に置いているそうです。その内容も一部紹介されていて、例えば広告業界から看護職に転職した一人は、前職での経験を活かし、デザイン的なポートフォリオを作成。その結果、新人ながらパソコンの先生として引っ張りだこだそう。その他にもネコの写真を入れたことで、そこから話題が広がっている人や、自分で勉強したことを資料としてまとめて入れている人もいるとのこと。ポートフォリオによって個々の能力や 関心事を知ることができ、コミュニケーションツールにもなっている点がいいなと思いました。

「ポートフォリオを先輩看護師が見て『こういうところがいいね』などとアドバイスしたり、頑張りすぎていたら声をかけたりしています。それにより、新人看護師たちもやる気が出ていて、ポートフォリオはさらにボリュームを増しています。新人看護師といっても、新卒や経験者、他業種からの転職などさまざまです。それぞれの努力のプロセスが垣間見えて、目標や頑張っていること、悩みなどが相互に共有できる取り組みになっています。今後は中堅スタッフにも広めていきたいと考えています」(大西氏)

看護サミット リレートークの様子

▲大西氏より、武蔵野中央病院の取り組みを紹介

 

学びたい医療施設へ出向し、長期研修を行う

「テーマ:複数施設で協働した実践の場での学習機会の創出」
(国立大学法人 京都大学医学部附属病院 病院長補佐・看護部長 井川 順子氏)

京都大学医学部附属病院では、看護師・助産師の実践能力を強化し、京都府内の看護の質向上を図ることを目的に、2015年に「看護職キャリアパス支援センター」を開設しました。

「今まで病院で行われていた医療機能の分化が進む中、病気が始まる急性期から在宅看護にいたるまでの幅広い看護を経験する機会も減少しつつあります。勤務する医療施設では行われていない看護を経験するために、退職するケースも見られています。

そこで、看護職キャリアパス支援センターでは、京都府の支援を得て『施設間の連携に強い看護師養成プログラム』を開発しました。教育のニーズと人員確保のニーズをマッチングさせる支援プログラムです。京都府域内の医療施設間で相互人材交流システムを確立することで、医療機能の分化における施設間連携に強い看護師を養成し、京都府内の看護力向上を目指すことが目的です」(井川氏)

プログラムへの参加は、自主的に希望する方がほとんどだそう。『行きたいと思う時がその時』という井川氏の言葉が印象的でした。参加者の勤務先と研修先とで契約を結び、学習ニーズに沿いながら、双方の施設に人員不足などの問題が起こらないよう調整したうえでマッチング支援をしていると言います。
また、交流期間中は参加者と定期的に面談の機会を設けているそうです。研修先により住む場所が変わる場合は生活面での支援もされていると。そうした支援も安心して参加できる要素だと感じました。交流期間は1単位3カ月で、2単位から8単位を想定し、施設のニーズや実践能力などを考慮して単位数を決めていると言います。現在、もうすぐ交流期間1年になる参加者もいるそうです。長期でみっちりと研修できる、うれしい取り組みですね。

「今までに約50名に参加していただき、中には交流先の病院で目標を見つけてそのまま勤務を続けた方もいます。参加者がひたむきに研修する姿を見て、受け入れ先の看護師も自分の看護を振り返るいい機会になっています。看護師の皆さまと医療施設の垣根を越えて、語れる場ができたのもこの事業のメリットだと感じています」(井川氏)

看護サミット リレートークのスライド

▲『施設間の連携に強い看護師養成プログラム』を説明する井川氏

 

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