おもしろいことをさがしてワクワクしよう
私は田舎生まれなので、川で泳いだり山を探検したりして育ちました。それが原体験となり、今でも好奇心旺盛で面白いことが大好き。この年齢になっても、ワクワクすることはないかと絶えず目を皿のようにして探しています。看護師の仕事においても、それは同じ。大変なことがあれば「じゃあ、こうして工夫してみない?」と考え、誰かが落ち込んでいたら「何か食べにいかない?」と話を聞く。「面白いことやろう」が、私のモットーです。
みんなの広場
2025/3
人生のターニングポイントを迎えたのも、看護師長時代です。ある時、がんを患った患者さんが入院してきました。ずっと助産師として働いてきた私にとって、看護が必要な患者さんを看るのは初めてのこと。そこで看護師に話を聞き、その仕事ぶりを学ぶことにしました。
看護師のひたむきな姿を見て、私は「看護には医学とは違った何かがある」と思いました。その本質を知りたくて、看護について徹底的に勉強することに。そこで42歳にして研修学校に通い、看護管理について猛勉強を始めたのです。
在学中はたくさん本を読み漁りましたが、それでも「看護とは何か」という問いへの答えは見つかりません。そんな中、教室の壁に貼られた校歌の歌詞を眺めていると、ふと「手を離さない」というフレーズが目に飛び込んできたのです。その瞬間、私の心が動きました。看護とは、患者さんを気にかけ、その手を離さないこと。そう改めて気づいたのです。
私がプロフェッショナルだと思うのも、やはり患者さんの手を離さない看護師です。看護師の「看」には、「みる」という意味が含まれています。「この人はこう」と型にはめるのではなく、一人ひとりをちゃんと「みる」。確かな技能がベースにありつつ、さらに患者さんをよく見て伴走する看護師がプロと言えるのではないでしょうか。
研修学校を経て、私は学びの重要性を痛感しました。そこで、次は大学に通おうと考え、青山学院大学経営学部に入学することに。経営学部を選んだ理由は、経営と看護はよく似ているからです。経営において重要なのは、市場のニーズを先取りすること。看護においても、高齢化社会に向けて何が必要かを考え、手を打つことが大切だと思ったのです。
その後、日本看護協会会長に就任してからも未来を見据えて、看護の将来ビジョンを示したさまざまな改革に取り組みました。介護・福祉関係施設や在宅などに特化した「看護師職能II」の設定や、在宅看護・介護を支援する地域密着型サービス「看護小規模多機能型居宅介護」の新設、看護師の特定行為に関する法改正にも尽力しました。
私もいい年ですから、今後のことはわかりません。ただ、日本看護協会会長時代、「看護師は死ぬまで現役」なんて言ってしまった手前、仕事を辞めるわけにはいきません。終活なんてせず、人のために働きたい。看護に関わり続けるかどうかはわかりませんが、人との関わりは持ち続けたいです。
最後に、管理層の皆さんにお伝えしたいのは、「選ばれたからには楽しんでほしい」ということ。苦しいことも多いですが、それも含めて楽しめばこっちのもの。真面目になりすぎなくていいんです。なんでもおもしろがり、全力で楽しんでほしいですね。
◎編集後記◎
「看護部長でその名を知らない人はいない」といわれるほどの坂本すがさん。そんな坂本さんへのインタビューということで緊張の面持ちで取材に臨みましたが、お会いしてびっくりしたのは、その明るさ! とても気さくで、明瞭で、時にユーモアをまじえながらも、まなざしやつむぐことばは常に力強い。取材後には、不思議と元気になり、「仕事をもっとがんばるぞ!」という活力もわいていました。「坂本さんのファンが多い」ということは聞いていましたが、私もまったく同じく、またぜひお会いしたいと感じたエネルギーにあふれたとってもすてきな方でした。お忙しい中このような機会をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。坂本さん、ありがとうございました!
文:野本 由起/写真:遠藤 麻美
私は田舎生まれなので、川で泳いだり山を探検したりして育ちました。それが原体験となり、今でも好奇心旺盛で面白いことが大好き。この年齢になっても、ワクワクすることはないかと絶えず目を皿のようにして探しています。看護師の仕事においても、それは同じ。大変なことがあれば「じゃあ、こうして工夫してみない?」と考え、誰かが落ち込んでいたら「何か食べにいかない?」と話を聞く。「面白いことやろう」が、私のモットーです。
坂本 すがさん | 東京医療保健大学 副学長 医療保健学部 看護学科 学科長 助産学専攻科 専攻科長 1972年、和歌山県立高等看護学校保健助産学部卒業。2007年、埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。76年4月、関東逓信病院(現・NTT東日本関東病院)入職し、1997年より看護部長を務める。06年、東京医療保健大学看護学科学科長・教授就任。中央社会保険医療協議会専門委員などを歴任。2011年6月~17年、公益社団法人日本看護協会会長。17年6月より現職。 |
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