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2026/5

【レポート】認知症ケアのヒントが見つかる! 「認知症の世界を歩いてみたら。展」

【レポート】認知症ケアのヒントが見つかる! 「認知症の世界を歩いてみたら。展」

認知症の方と接する機会が多い看護職・介護職。身体拘束という判断を下さざるをえない場合もあり、認知症をもつ方へのケアに悩んだ経験がある看護師さん・介護士さんも多いのではないでしょうか。今回Nursing-plaza.com編集部が取材したのは、認知症とともに生きる人の“日常”を体験できる展示「認知症世界を歩いてみたら。展」です。認知症ケアには、“知識”だけではなく、認知症の方が生きる世界を“理解”することも大切なのかもしれない。そんな気づきを得た展示会をレポートします。

「認知症世界を歩いてみたら。展」とは?

2026年51日から7日間にわたって神奈川県の鎌倉芸術館で開催された「認知症世界を歩いてみたら。展」。認知症のある人が見ている世界や感じている戸惑いを、“知識”ではなく“体験”として感じられる体験型の展示です。展示のベースとなっているのは、認知症当事者約100名へのインタビューをもとに制作された書籍『認知症世界の歩き方』(著:筧 裕介)。書籍の世界観を展示空間として再構成し、認知症の人が日常の中で感じている不安や混乱、感覚のズレを、視覚や聴覚などの五感を使いながら追体験できる内容となっています。

認知症世界を歩いてみたら。展 公式HP

▲「認知症世界を歩いてみたら。展」ホームページ

認知症の世界を“体験”するとは? 展示のほんの一部をご紹介

展示空間には「旅のストーリー」をコンセプトにしたエリアが点在しています。例えば、複数の商品から自分が欲しいものを選択することが難しい「カクテルバーDANBO・カイケイの壁」、物との距離感や色の差異がわからなくなる「サッカク砂漠・服ノ袖トンネル」。見たことのないメニューが並ぶ「アレソーレ飯店」や、目の前の風景が二次元のようにうつり、道に迷ってしまう「二次元銀座商店街」など。ユニークな名称のついた認知症世界を、私たちは五感をめいっぱい使って、体験しながら旅をしていきます。

ここからは特に印象的だった体験展示を3つピックアップしてご紹介します。

1.まっすぐ歩けない! 「空間認知が曖昧なパーティー会場」

旅のはじめの準備運動のように設置されていた体験展示。空間認知が曖昧になる専用の眼鏡をかけ、身体と物の距離感が捉えにくくなる世界を体験できます。この体験のミッションは、レッドカーペットの上をまっすぐ歩き、人混み(白い棒)を避けて、奥の白いテーブルがあるパーティー会場でワインを注いで乾杯をすること。
眼鏡をかけてミッションスタート。自分の立ち位置がレッドカーペット上からはずれているように見えてしまい、レッドカーペットの上をまっすぐ歩けない……!人(白い棒)にぶつかりながらもパーティー会場に到着。あとはワインを注ぐだけですが、空間認知の低下により、グラスとワインとの距離感がわからず、注ぎ口の位置がずれているように見えてしまいます。いつもなら見えているまま、なんの疑いもなくグラスに液体を注ぐことができますが、「どうすればこぼさずに注ぐことができるか」という、半ば勘を頼りにしての作業に。普段当たり前のように行っている動作が、こんなにも難しくなるのかと驚きました。認知機能の低下は日常生活に大きな影響をもたらすことを実感できた体験でした。

2. 文字が読めない!? 「アレソーレ飯店」

認知機能の低下によって、言葉から意味を想起できなくなったり、文字を文字として認識できなくなる、言語の世界の「揺らぎ」を体験できる展示です。

右から見ると通常通りメニューが読めるけれど……

左から見ると全く文字が読めない! これが認知症の方が見ている世界だといいます。注文が「アレ」「ソレ」になってしまうのも納得ですし、もしかしたら言葉を忘れてしまったのではなく、文字を読めなくなっているだけなのかもしれませんね。

3.買うべきものがわからない! 「カイケイの壁」

日常生活の中で、重要な役割を担う「注意」という働きの低下によって生じる世界を体験できる展示。注意とは、周囲のさまざまな情報、例えば目に飛び込む景色や耳に入る音、人の声、鼻で感じる香りの中から、自分に必要なものに意識を集中させる働きのこと。この注意という機能が働くことで、大量の情報の中から、自分に必要なものに目を向け、適切に選択することができるのです。認知症の世界を生きる人の見え方が表現された陳列棚。皆さんがいつも行くドラッグストアを想像してほしいのですが、製品のデザインや形状が似ていて、選択のしづらさを感じることがあるのではないでしょうか。認知症のある方は特に、複数のものから必要なものに注意を向け、選択することが難しくなります。その感覚を知ってもらうため、より見分けが難しいパッケージが並べられています。これでは「アロックのシトラスの香りの柔軟剤を買う」というミッションを達成するのもひと苦労なはず……。

認知症の世界を理解することが、正しく、やさしい認知症ケアの第一歩

展示会では、『認知症世界の歩き方』の著者であり、NPO法人issue+design代表の筧裕介さんによる講演も行われました。「認知症は誤解や偏見が非常に強い病気です。認知症になると、まるで人生が終わってしまったかのように考える人もいますが、それは大きな間違いです。認知症とともに人生を楽しんでいる人は大勢います。認知症の世界を理解することは、ケアする側のケアのしやすさにもつながるのでは」と話されていたのが印象的でした。

▲「認知症とは、人生100年時代を生きる誰にとっても避けて通れない課題。ぜひ皆さんも認知症を自分の課題だと認識してほしい」と語る筧さん。

超高齢社会の日本において、認知症のある患者さん・ご利用者の数はますます増えていくことでしょう。今回の体験を通じて、認知症ケアには知識や専門性ももちろん必要ですが、同時に、患者さんが抱える不安や混乱を「想像する力」の必要性も強く感じました。またこの力は、認知症当事者へのケアだけでなく、その家族のケアにも生かすことができます。そして、その想像力を養うためには、まず認知症とともに生きる人の世界を知り、理解することが不可欠なのだと思いました。

筧さんはあるインタビューの中で「認知症は、『痴呆症』と呼ばれていた時代からの教育により、医療や介護の現場に認知症への誤った理解が浸透しており、まだまだ差別的なケアが行われるケースがみられます。専門職、そして家族からの不適切なケアが、ご本人の精神的・身体的負担を助長し、それが症状の悪化や認知機能の低下につながることもあるのです」と発言されています。

看護職・介護職の皆さんが受けてきた認知症の教育は、今の時代において、本当に適切なものだったのでしょうか。もし、認知症への学びをアップデートできていないと感じるならば、今回の展示はご自身の知識やケアを疑い、見直すきっかけにもなるはずです。認知症への正しい理解が、認知症ケアに対する悩みや不安を解消することにもつながるかもしれません。

『認知症世界を歩いてみたら。展』は、鎌倉での開催を皮切りに、今後は全国各地での開催や、映画への展開も予定されているとのこと。ケアする患者さんやご利用者、そして大切な人のことを思いながら、ぜひ認知症の世界を体験しに足を運んでみてはいかがでしょうか。

今回の展示を体験し、認知症だった祖父のことを思い出しました。講演の中で筧さんは、認知症の人が大切な人の顔がわからなくなってしまうのは、「忘れた」のではなく、認知機能の低下によって顔の形や特徴を判別しづらくなっているからだと説明されました。展示内では、「アレソーレ飯店」のメニューの文字が見慣れた文字なのに認識できなくなる体験が紹介されていましたが、それと同じように、見知った顔も別の人のように見えてしまうことがあるのだといいます。
私はこれまで、祖父は、祖母や母そして孫である私たちのことを忘れたまま亡くなったのだと思っていました。しかしそうではなく、ただ“誰なのか判別できなくなっていた”だけなのかもしれません。この事実をもっと早く知ることができたら、祖父の介護に苦しむ母の心を少しは軽くできたことでしょう。また私自身、忘れられたわけではなかったということを知り、胸の奥に残っていた寂しさが、数年越しにほどけていったような気がしました。自分の大切な人たちのためにも、認知症について理解を深めたくなった展示会でした。

▲展示内では血液型ごとでミッションが異なるスタンプラリーも楽しむことができました

★オランダの認知症ケア「ホグウェイ」について取材した記事もぜひご覧ください。
認知症の村“Hogewey”から学ぶ新しいケアの形 「自由な生活」が一番の認知症ケアに?

イベント名認知症世界を歩いてみたら。展
開催日2026年5月1日(金)~5月7日(木)
開催場所鎌倉芸術館
公式HPhttps://issueplusdesign.jp/dementia_world/exhibition/

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