やはり介護現場に介護美容を届けてサポートしていきたいと考えていたので、独立することを決めました。地元の市役所と商工会議所などにも相談して、資格取得の半年後に開業届を出しました。でも当時、コロナ禍の真っただ中で施設訪問が規制されていたので、地元の在宅高齢者の方に知っていただくところから活動を徐々に広げていきました。

介護現場の人手不足は、他の現場でもよく耳にしており、私自身も実感していました。ご利用者様に寄り添いたくても時間が取れない現状がありました。また、スタッフ自身が疲れているとつい対応がきつくなってしまうなど、悪循環が生まれてしまいます。現場の中にいながらそれを変えていくのは難しいことですが、外部から違ったアプローチでサポートすることができれば、スタッフさんの負担も減らすことができ、よい循環が生まれるのではないかという期待もありました。

在宅高齢者への訪問を中心に、1対1のハンドセラピー、フェイシャルセラピー、メイクキュアセラピー、ケアネイル、アロマトリートメント、足爪ケアなどを提供しています。また、施設のご利用者様にも1対1のケアや美容と健康に着目した集団レクリエーションを提供しています。

ある闘病中のご利用者様にフェイシャルセラピーを施した際、「生きよう！」と言われたことは忘れられません。病気で気持ちが塞いでいたのが、触れ合って、話していく中で元気が湧いてくる姿を見て、まさに「心が動けば身体が動く」ことを実感しました。いくら言葉で「ご飯食べよう」「リハビリしよう」などと勧めても、気持ちが動かないと行動につながらないんです。自分が行ったケアで心が動くきっかけをつくることができて、本当に嬉しかったです。

この資格は、「心を動かす」ケアを根本としています。「介護してもらっているから申し訳ない」「迷惑をかけたくない」という気持ちから、希望や不満を言い出せない方に対して、本音を引き出しサポートすることで生きる活力を見出すこと。また、今まで当たり前だった身なりを整えることやおしゃれを楽しむことは、ご利用者様の自らの能力を活かすことでもあり、自立生活へのモチベーションとなります。認知症の行動・心理症状（BPSD）のケアにも効果があるなど、ビューティタッチセラピーの知識や技術はさまざまな場面で活用することができます。お一人お一人の尊厳を大切に、その方らしさを支援していくことをより高めていけると思います。

まず介護施設で、高齢者の方が身なりを整える時間やおしゃれを楽しむ時間が当たり前となるような働きかけを広げていくこと。他職種の方々と連携し、介護美容を介護保険外サービス（インフォーマルサービス）として、お一人お一人のケアに携わっていき、「その方らしい生活」をサポートさせていただくことを考えています。
そして地域の介護予備軍の方々に向けてもケアの時間の大切さを広め、介護予防・認知症予防に貢献していきたいです。ただ現状、介護美容の効果に関する学術的な認知度が低く、今後その効果のエビデンスを広げていくためにも、実績を積んでいきたいと考えています。

ICT化が進む中、直接触れ合うビューティタッチセラピーは人の温もりが伝わる意義ある時間だと思います。そして、人生100年時代の健康寿命延伸や介護予防、認知症予防においてもお力になるサービスだと思います。資格取得を目指す中で不安や心配はつきものですが、私も同期の方々に支えられたように、同じ志をもつ仲間と思いを共有し、互いに頼ることはとても大事です。ぜひ切磋琢磨しながら、頑張ってください。