資格のチカラ

2024/10

日本口腔ケア学会認定資格

口腔ケアに関する知識や能力を有する者に認定される資格。2006年、口腔ケアの知識や技術の普及、質の向上を目的に、一般社団法人日本口腔ケア学会が創設しました。1級から5級まで設けられている他、「口腔ケア指導者」の認定資格があります。

口腔ケアの資格を生かして引き出す、がん患者の生きる力

資格取得年月:2007年4月
国家公務員共済組合連合会 横浜栄共済病院
患者サポートセンターがん相談支援課 主任

さえき かおり佐伯 香織

食べる、話す、笑う、呼吸をする。これらはすべて口腔状態が整っていることが大前提です。口腔内の清潔は、自分らしく生き続けるための生命線と言っても過言ではないかもしれません。日本口腔ケア学会認定資格を生かしながら、日々がん患者さんの口腔ケアに携わる佐伯香織さんに、資格取得の経緯や取得前後の変化などについてうかがいました。

適切な口腔ケアができるようになり、やる気や自信につながった

資格を取得したあと、業務に何か変化はありましたか?

口を開けてもらう、歯を磨く、といった一つひとつのケアを分断的ではなく自然な流れで行えるようになりました。ベッドに横になっている患者さんからしたら、看護師が来て急に「口を開けてください」と指示されるのは少し怖いですよね。そうではなく、雑談からはじめて顔の筋肉をほぐしながら、「これからお口の中をきれいにしたいのですが、少し開けていただいてもよろしいでしょうか?」と声をかけてからケアにあたっています。リラックスしてもらう大切さを学んだからこその変化だと思います。
それから痛み止めの薬の使い方も変わりました。口内炎などで痛みがある時は痛み止めの薬を使ってからケアにあたります。以前は薬を飲むことすらつらそうだったり、口腔ケアのためだけに点滴で痛み止め薬を投与することに抵抗感があったりして、使うのを躊躇することもありました。しかし口腔ケアの重要性や痛み止めの適切な使い方を改めて学んだことで、痛みをどんどん取ってしっかりケアをするようになりました。

患者さんの負担もとても軽くなったのではないでしょうか?

そうですね。「口の痛みがよくなったよ」「前回の抗がん剤治療の時よりも楽だった」といった反応をいただけるようになりました。看護師として何かしてあげられたという実感がわき、やる気や自信にもつながりました。

まわりの看護師さんの反応はいかがでしたか?

当時は日本口腔ケア学会認定資格ができたばかりだったので、「そもそもどんな資格なの?」と聞かれることがあり、説明をきっかけに口腔ケアに興味や関心をもってくれる人が増えた気がします。
また、都立駒込病院では毎日500mlのうがい薬をつくり、1日で使い切ってもらうことが看護師の仕事でした。できるだけ楽しんで取り組んでもらえるようにボトルに「がんばってうがいしてね」「あともう少し」といったメッセージやイラストを書いてみたところ、徐々に他の看護師も真似してくれるようになったんです。資格を取得したことで、自分の行動や言葉の発信力が大きくなったと感じました。

佐伯さん写真患者さんの口腔状態にあわせて、開口器やヘッドの薄い歯ブラシ、舌ブラシなどのアイテムを使い分けている

資格という後ろ盾があるからこそ、多職種連携にも積極的になれた

現在お勤めの患者サポートセンターがん相談支援課では、資格をどのように生かしていますか?

2016年に横浜栄共済病院に勤務するようになって、すぐに口腔ケアチームをつくりました。院内には歯科衛生士さんもいますが、外来の業務が忙しくてなかなか病棟を回れないこともあるため、感染管理や集中ケアの認定看護師と一緒に病棟患者の口腔ケアに携わっています。時には栄養サポートチーム(NST)に帯同して、食事や給水の方法を口腔ケアの視点で意見することも。資格という後ろ盾ができたことで、他職種の方に声を掛けやすくなった気がします。

一緒に取り組む仲間がいるのは、心強いですね。

そうですね。プロフェッショナルで前向きなメンバーが集まっているので、とても心強いです。以前、口腔ケアチームで、心不全の患者さんの緩和ケアに携わったことがありました。口の中が乾燥して話すことも食べることもできず、意識レベルも低かったのですが、口腔ケアを施したところ徐々に舌が動くようになったんです。するとたくさんお話するようになり「水ようかんが食べたい!」とご家族にリクエストするまでに回復されました。その時は冬だったので水ようかんがなく、「コーヒーゼリーじゃだめ?」なんて言いながらご家族が水ようかんを探し回っていました(笑)。無事に水ようかんを食べて、ご家族といろいろなお話もして、楽しい最期を迎えられたご様子でした。この時ばかりは口腔ケアチームの賜物だなと感じましたし、口腔ケアは生きる力を与えるすばらしいことなんだと再認識しました。

口腔ケアはよりよい最期を迎えるためのケアでもあるのですね。

口腔内が整っているからこそ、思いっきり笑ったり、食べたり、話したりすることができるので、緩和ケアと口腔ケアは切っても切り離せないものだと思います。もちろん闘病意欲の向上にもつながることから、その他のケアにおいても欠かせません。そうした意味では日本口腔ケア学会認定資格で口腔ケアを学ぶことは、自身の看護のベースづくりや専門分野を深めていく序盤のステップとして最適だと思います。

佐伯さんと口腔ケアチームのメンバー
口腔ケアチームの仲間としてともに働く、クリティカルケア認定看護師(特定行為研修修了者)の澤畑さん(中央)と、感染管理認定看護師の花井さん(右)

すべては患者さんのために。口腔ケアの知識はあらゆる看護で生きてくる

日本口腔ケア学会認定資格の取得を考えている方に、メッセージをお願いします。

きっと皆さんの看護業務を手助けしてくれる資格になります。あまりプレッシャーに感じず、気軽にチャレンジしてみてほしいですね。もちろん看護師だけではなく、歯科衛生士や介護福祉士の方にもおすすめです。最近、介護福祉士さん向けにアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)の勉強会をさせていただく機会が増えてきました。アドバンス・ケア・プランニングとは万が一の時に備えて、最期の過ごし方を周囲の方々と話し合うこと。患者さんや利用者さんに自分らしい最期を迎えていただくためにも口腔ケアは必要不可欠ですので、勉強会の最後には必ず日本口腔ケア学会認定資格をご紹介しています。

佐伯さんがこれからチャレンジしたいことはありますか?

口腔ケアの知識を深めたいと考えている人をサポートしていきたいです。私にとっての都立駒込病院の歯科衛生士さんのような、よきアドバイザーがいるといないとでは、勉強の理解度や進度は大きく変わってくると思うんです。日本口腔ケア学会の看護部会の方々や先生方とともに、より手厚いサポートをしていけたらいいなと考えています。

バイタリティにあふれるお話ばかりでしたが、佐伯さんの原動力はなんですか?

昔から困っている人を放っておけないような世話好きなところがあるのですが…、一番は患者さんのために何かしてあげたいという気持ちですね。生きているとつらいこともたくさんあると思いますが、最期はいい人生だったなってかみしめてもらえるような看護をしたいんです。日本口腔ケア学会認定資格の他、3学会合同呼吸療法認定士や笑い療法士、リンパ浮腫セラピストなどの資格も持っているのですが、どれも「資格を取りたい」というよりは「患者さんのために学んだ結果、資格がついてきた」という感覚です。資格取得はゴールではないので、それを生かして患者さんのために何ができるか、自分がどうなりたいかを考えてもらえるとよいのではないかと思います。

佐伯さんお写真

写真:井上 亮

 

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息抜きに欠かせない、勉強のお供!

勉強に疲れた時は、推しの音楽を聴いたり、オレンジやラベンダーのアロマを焚いたりして、リラックスしていました。アロマテラピー1級と2級を取得しているのですが、もっとアロマについて詳しくなるべく、アロマテラピーアドバイザーの取得も検討中です。ガジェット類を入れるポーチはビビッドなピンク。明るくてポップな色味が気分を上げてくれます!

取得方法・お問い合わせ

資格主催団体名:一般社団法人 日本口腔ケア学会
受験資格4級・5級:日本口腔ケア学会会員であること。学生会員も受験可能。
4級・5級(薬剤師)…学会員で薬剤師国家資格を有する者。
ホームページ:https://www.oralcare-jp.org/

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