株式会社麻生 飯塚病院
<お話してくれた方>
前列・左から
副院長 兼 看護部長 森山 由香さん
改善推進本部 マネージャー 立石 奈々さん
看護管理師長 セル看護小委員会 倉智 恵美子さん
後列・左から
看護師長 セル看護小委員会 中山 和子さん、小松 加寿子さん、日置 由季さん
「日本一のまごころ病院」を目指し、約1,000名の看護師が患者さんのために日々奮闘している飯塚病院。「セル看護提供方式®※1」の開発病院として、全国の病院から注目を集めています。セル看護提供方式®の開発の契機の一つとなったのが、飯塚病院が1992年から取り組み続けている改善活動です。2022年秋には、TQM※2における世界最高ランクの賞とされる「デミング賞※3」を受賞し、その活動が高く評価されています。
同院看護部では、現在、セル看護提供方式®を全病棟で実施し、改善活動においては、全職員が取り組んでいるといいます。今回は、全国各地の看護部が採用しているセル看護提供方式®の今、そして「改善の心」を職員一人ひとりに根付かせてきた戦略をお聞きしました。
※1 セル看護提供方式®は株式会社麻生の登録商標です
※2 Total Quality Management(総合的品質管理)の略。経営管理手法の一種で、企業活動における「品質」全般に対し、その維持・向上を図っていくための考え方、取り組み、手法、仕組み、方法論などの集合体を指す
※3 1951年に創設されたTQMに関する世界最高ランクの賞。品質管理および経営管理の向上に卓越した成果をあげた企業や個人に贈られる
入社時から改善意識を根付かせる仕組み
「改善人材開発プログラム」
立石
当院では、1992年から院内の改善活動をスタートしました。現在ではEK(Everyday Kaizen)活動、TQM(QCサークル)活動、KW(Kaizen ワークショップ)活動という3つの型に分けて、医師とアルバイト以外の全職員、約2,100名が実践しています。
▲飯塚病院が現在実施している改善活動(資料提供:飯塚病院 改善推進本部)
私たち改善推進本部は、「『日本一のまごころ病院』を実現するために改善を推進する」をミッションとした、改善推進の専門部署です。副院長である医師を本部長として、看護師や作業療法士、ソーシャルワーカーなどが所属しており、現場支援や仕組みの整備、人材育成など、改善推進業務を専任しています。
現場の一人ひとりに改善活動の意識を根付かせるために、私たちが2014年に開発したのが「改善人材開発プログラム」です。これは、当院の人事制度の等級制度(1~5等級)に、改善の3つの型(EK活動、TQM活動、KW活動)をあてはめたもの。1等級を新入社員、5等級は師長以上としています。例えば、1等級では「EK活動の実践や改善の基礎学習」を2等級昇格への推奨条件として定めています。1~3等級までは、改善活動の実践や学習を昇格の推奨条件としていますが、4、5等級の主任以上は、昇格には改善活動の実践が必要不可欠となります。ポイントは、「飯塚に入社した瞬間から改善活動に触れる、取り組む」仕組みであること。このプログラムの導入により、2014年に121名だったEK活動の活動者数は、2023年には797名にまで増加しました。
▲改善人材開発プログラムの仕組み(資料提供:飯塚病院 改善推進本部)
アップデートを続けるセル看護提供方式®
今年は師長のラウンド方法に変化
倉智
セル看護提供方式®(以下、セル看護)は、改善活動をベースに、飯塚病院独自で開発した、「患者さんのそばで仕事ができる=患者さんへ関心を寄せる」ケアを実現する看護方式です。2013年の導入から約10年、培ってきた改善手法を用いてアップデートを繰り返しており、近年はナースコールゼロや、始業前情報収集ゼロを目指した取り組みを進めてきました。現在、注力していることの一つに「師長の動き方」があります。
中山
具体的には、師長のラウンド方法を変更しました。今年から、ノートパソコンを乗せたカートを引いてラウンドしてもらっています。ラウンド時にパソコンがあるメリットは、患者さんのデータをその場で見られること。例えばその日の患者さんの検査予定や「昨日患者さんが病気への不安を吐露し、泣いていた」といった記録などが確認できます。これにより、患者さんの状況に合ったアセスメントが可能になりました。スタッフにも好評で、「患者さんのさまざまな情報を、師長と一緒にパソコンで確認しながら相談ができるので、問題の解決がしやすくなった」「近くに師長がいるので、すぐに相談ができる安心感がある」といった声があがっています。
倉智
以前、スタッフステーションにいた師長に「今日、あなたが気になる患者さんは?」と聞いてみると、答えられないことがあったんです。平日は日勤している師長が一番患者さんを把握しているはずなのに、そこで答えられないというのは、やはりあってはならないことですよね。セル看護の開発者である須藤がよく話していますが、「師長は、看護の知識と技術のスペシャリスト。だからこそ、もっと現場に出て、患者さんのケアをきちんとスタッフができているのか、自分の目で確かめるべきだ」と。そこで師長もパソコンを持ってラウンドしてみようか、というところから始まりました。飯塚のよいところは、とにかくやってみる姿勢があること。パソコン専用のカートがないなら、今ある台車で始めてみる。パソコンの台数が足りないなら、その足りない分をどうまかなえるかを考える。これは改善活動で培ってきた考え方だと思います。
▲セル看護小委員会発足当時から所属している倉智さん(左)と小松さん(右)。セル看護のアップデートを推進している
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