私たちの働き方改革

2024/10

動画活用で看護部全体に取り組みが浸透 ICTに頼らない超過勤務削減方法とは

動画活用で看護部全体に取り組みが浸透 ICTに頼らない超過勤務削減方法とは

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院

<お話してくれた方>
左から
看護師長 星山 美穂さん
看護師長 山崎 真理子さん

超高齢社会に直面する中で課題とされているのが、看護・介護業界における人手不足です。聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院の看護部では、看護職の不足を解消し、長期的な視点で安定した人員体制をつくっていくため、2023年4月に働き方改革プロジェクトを発足。看護師一人ひとりが長く働き続けられる職場づくりを目的として活動を開始しました。1年間の活動を通して業務の再分配を看護部全体で実現し、課題となっていた超過勤務を前年度比で9%削減に成功。その要となったのが、各部署でのコミュニケーションの強化でした。どのように活動を進めてきたのか、お話をうかがいました。

看護部全体にハドルミーティングを定着させるため、動画を活用

星山

当院のある神奈川県横浜市旭区は、高齢化が進んでいる地域です。高齢の患者さんが増える中で安定したケアを提供し続けていくためにも、看護師の人員確保が継続的な課題となっています。この状況を受け、働きやすい職場環境を整えて人員を確保していくため、2023年度に看護部内で働き方改革プロジェクトが始動しました。主導メンバーは10名で、各部署の主任や師長、副師長が参画しています。

活動にあたり具体的な施策があったわけではなく、財源も限られていました。その中で、今自分たちにできることを考えて着目したのが、年間活動計画に組み込まれている「ハドルミーティング」でした。

山崎

ハドルミーティングとは、チームで行う作戦会議のことです。5~10分程度の短時間のミーティングをこまめに行い、業務の進捗把握と再分配を行います。これは、医療の質と安全の向上のために、チームワークを高めるステップをまとめた「チームステップス(Team STEPS)」の手法のひとつです。医療安全の知識をもつ副看護部長の発案で、看護部の年間活動計画に組み込まれていました。

ハドルミーティングは業務中の問題解決を行う場です。これと合わせて始業時にブリーフィングという事前打ち合わせを行い、業務終了時に振り返りとしてデブリーフィングを行います。ブリーフィング・ハドルミーティング・デブリーフィングをセットで行うイメージです。

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 ハドルミーティング 図▲ブリーフィング・ハドルミーティング・デブリーフィングは図のような流れで行う

山崎

すでにハドルミーティングのサイクルをうまく取り入れている部署もあれば、どう取り入れたらよいのかわからないという部署もあったので、まずは全部署の足並みをそろえる必要がありました。そこで、説明動画をつくってスタッフに観てもらうことにしたのです。

星山

聖マリアンナ医科大学では法人全体でeラーニングに力を入れており、スタッフには定期的に学習課題が課せられています。なので、学習負担がなるべく大きくならないよう、15分程度の短いものを作成することに。私たちのつくった動画をeラーニングのプラットフォームにアップして、いつでも自由に観られるようにしました。

山崎

動画では、働き方改革プロジェクトの目的や、ハドルミーティングはなぜ重要なのかということ、ブリーフィング・ハドルミーティング・デブリーフィングの方法について3回に分けて紹介しました。ハドルミーティングなどの方法は、兼ねてから取り組んでいた部署に協力してもらい、実際に行っているところを撮影。うまくいっている部署のやり方を見てもらうことで、どのような方法で進めたらよいかわからなかった部署も参考にしながら取り入れることができました。また、それぞれのチェックポイントも動画で説明したため、それもわかりやすかったようです。

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 インタビュー▲作成した動画について解説する山崎師長。動画で見るとハドルミーティングの流れが理解しやすいとスタッフからも好評だった

ハドルミーティングによる業務の再分配で、超過勤務時間の9%を削減

星山

ハドルミーティングの大きなメリットは、業務の再分配を行う点にあります。うまく取り入れている部署は、ハドルミーティングを午前中に1回、午後に2回行うなど、時間を決めてこまめに行っています。都度スタッフの残務を確認し、業務量の偏りがないように再分配しながら、全員が定時で帰れることを目指して取り組んでもらっています。

山崎

部署内に少人数のチームをつくり、各チームにリーダーを立ててハドルミーティングを行っている部署もありました。少人数の方がサクッと短時間でできるためです。また、部署によってはリーダーの下にさらにプチリーダーを立てているケースもあります。プチリーダーがリーダーに現状を報告し、再分配について指導をもらいながらメンバーに指示していくスタイルです。次世代のリーダー育成も兼ねられるので、よい方法だなと思っています。

星山

プロジェクトが始動した2023年4月頃は、ハドルミーティングの定着率は部署によってかなり差がある状態でしたが、翌年3月には、すべての部署において各々の方法で取り組むまでになりました。職員一人ひとりが自然と業務量を報告できるようになりましたし、チーム内でのコミュニケーションも増えています。この取り組みのおかげで、超過勤務時間数は前年度比で9%減少しました。月の平均超過勤務時間が7.5時間から6.9時間に減ったという具合です。超過勤務の削減については、例年、目標値を前年の10%減としていたのですが、なかなか達成には至りませんでした。しかし2023年度は目標値に近い数値が出せたのです。

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 インタビュー▲星山師長は、2024年のナースまつり「働きやすい病院アワード」でプレゼンを担当した

アンケート調査を実施し、職場風土の改善にも取り組む

星山

超過勤務の多さと同様に課題として挙げられていたのが、職場風土の改善です。元々離職率は高くなかったものの、退職理由として「職場の人間関係」という意見が散見されていたのです。少数意見ではありましたが、職場風土を理由に退職してしまうのはもったいないこと。そこで、まずは実態を把握するために2023年5月にアンケート調査を行いました。

アンケートは大きく3つに分けて、人間関係、ワーク・ライフ・バランス、業務改善に関する部署の姿勢について聞きました。結果は、そこまで否定的な回答はありませんでしたが、例えば人間関係について「威圧的な態度を取っているスタッフがいるか」という質問に対し、「いる」と回答した人が一定数いました。もちろん人間関係が良好な部署も多く、課題は部署ごとに異なります。なので、アンケート結果で挙がったそれぞれの課題を部署ごとに解決していくことにしました。

山崎

まずは各部署の副師長を中心に課題を出し、部署が目指すべき方向性を考え、そのための取り組みを年間計画で立ててもらいました。そこに私たちがPDCAサイクルを回せるようなフレームワークをつくり、それに沿って課題解決を実践してもらうことにしたのです。具体的には、心理的安全性を高めるための取り組みを行った部署や、ハドルミーティングを定着させるための年間計画を立てた部署など、取り組みはさまざまでした。

星山

超過勤務の削減も職場風土の改善も、その重要性を理解しているプロジェクトの主導メンバーがいる部署であれば、メンバーが主体となって動くことで活動が自然と定着していきました。ですが、すべての部署にメンバーがいるわけではないので、メンバーがいない部署については取り組みがなかなか定着されにくくもありました。そのような部署については、師長の力を借りて取り組みへの声かけを強化したり、定期的に行われる主任会の場で伝えてもらったりすることで、次第に看護部全体に取り組みが浸透していきました。

聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 インタビュー▲プロジェクト発足時からふたりが中心となって活動している

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施設名聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
住所〒241-0811 神奈川県横浜市旭区矢指町1197-1
開設1985年
病床数518床 ※2024年10月時点
ホームページhttps://seibu.marianna-u.ac.jp/

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