私たちの働き方改革

2026/9

現場重視の生成AIを開発し 院内全体で活用できる仕組みを構築

現場重視の生成AIを開発し 院内全体で活用できる仕組みを構築

    院内全体に生成AIが浸透
    看護の標準化も実現

    望月

    現在は病棟だけでなく、各外来でも専用の生成AIを導入しています。私が担当する健診センターですと、保健指導の際に活用しています。以前は指導に入る前、健診データを見ながら指導内容や順序などを考えていましたが、それを生成AIに作成してもらうようにしました。導入した結果、特に経験の浅い看護師への効果が大きく、「準備時間が半減した」といううれしい声も上がっています。プロンプトを作成する段階で、糖尿病や高血圧などの診療ガイドラインを組み込んでいるため、根拠から大きく外れた内容が出てくる心配がありません。業務に慎重な看護師も安心して活用してくれています。

    黒部

    薬物療法センターでは、「ケモ室ケア」という生成AIを活用し、高齢者機能評価スクリーニング(G8)を行っています。これまでは、患者さんに栄養指導が必要かどうかの判断を看護師個人の経験や感覚に頼っていた部分があり、判断にバラつきがありました。ですが、生成AIが出す客観的な評価指標を参照できるようになったことで、評価の標準化が実現。これにより、栄養士の介入が必要な患者さんが3%から、5~6.5%に上昇しました。必要な患者さんに必要なタイミングで介入につなげられるようになりました。

    働き方改革_長野市民病院▲「今までは本を開いて調べていたことも生成AIに聞けばすぐに答えてくれるので、かなり時短になっています」と話す3人

    山口

    病棟では看護師1人1台のPC環境が整っており、どのPCからも生成AIにアクセスできます。そのため、ちょっとした調べ物や資料作成、看護記録のための情報整理や文章作成にも生成AIを使えるので、作業時間はずいぶん減りましたね。

    作業効率化の面では、患者情報を素早く確認できる「看護一括情報収集」は特に効果が表れています。導入前は患者さんの情報を取得するのに1回につき13.6分かかっていましたが、導入後はわずか4.3分に短縮。2026年7月は7070回活用されたというデータが出ており、年間に換算すると1096時間の削減となります。

    さまざまな生成AIを導入したおかげで、院内全体で時間外勤務時間も減少しました。2025年は看護職員一人あたりの月平均時間外は8.27時間だったのが、2026年4月~7月は、6.68時間になったという数字も出ています。

    課題は“デジタル格差”
    全員が生成AIを活用する基盤づくりを

    山口

    ただ、全員が活用するまでには至っていないのが今の課題ですよね。普及はしているものの、「よくわからない」という声もまだ聞かれます。

    そうですね。2026年6月のアンケート調査では、生成AIの活用に「抵抗を感じる」または「どちらとも言えない」と答えた職員が約3割いることがわかりました。そこで、当院では生成AI普及を目的として「医療DX推進委員会」を発足しました。看護部としても、委員会と各部署をつなぐ役割として各部署から看護師を1名ずつ選出し、「リンクナース」として9月から活動してもらっています。住医師の講義も予定しており、改めて生成AIの必要性を学んだリンクナースが各部署で発信・普及してもらうことを期待しています。

    山口

    現場レベルでも、使い方がわからないスタッフに質問されたときには「こんな風にやるといいよ」とアドバイスして、ベースアップを図るようにしています。

    少子高齢化が進む中でも看護の質を維持し続けるためには、限られた時間と人数で成果を生み出すことが重要になります。それを叶えるためにも医療DXやその一環である生成AIは欠かせません。職員一人ひとりが業務効率化を意識し、生成AIを積極的に活用していってほしいと思っています。

    すべては現場のために
    生成AIは看護師を支えるツール

    高野

    医療現場で生成AIを活用するのは、実はとてもハードルが高いことなんです。医療データは「要配慮個人情報」という特に重要な情報にあたるため、セキュリティ対策は欠かせません。当院ではプライベートクラウド内に生成AIエンジンを構築し、アクセス自体もプライベートネットワークに限定することで、外部への漏洩防止と非公開を徹底しています。ただ、こうした厳重なセキュリティ対策には初期費用がかかりますよね。費用をかけたが故に職員への利用を強く促してしまうと、単なる業務命令として受け取られ、現場への定着がかえってうまくいかなくなるケースもあります。

    単純に「いいものだから使って」と現場任せにするのではなく、どんなものが必要とされ、安心して使ってもらえるかを普及する側もしっかり考えないといけませんね。

    高野

    そうですね。当院で生成AIがここまで定着したのは、デジタルアンバサダーをはじめ現場の職員を巻き込み、丁寧に説明を重ねてきた背景があります。現場で起きている心理的ハードルなどの“小さな段差”をコツコツ取り除き、認知を広げることを重視してきました。

    自院で生成AI導入を検討されている方は、最初から身構えて始めるよりも、例えばGoogleなどが出している企業向けの生成AIを患者情報に関わらないところから使い始めてみるとか。できるところから現場を巻き込んで少しずつスタートするのがいいかもしれません。働き方改革_長野市民病院▲「身近な業務からAIに任せていく仕組みをつくりたい」など、今後の生成AI活用について活発に意見が上がった

    山口

    今後、生成AIがもっと進化したら、インカムをつけて喋ると自動で記録や資料づくりをしてくれるようになり、看護師は患者さんの看護だけに専念できるようになることでしょう。そうしたところまで生成AIが進んでくれるのではと期待しています。

    黒部

    在宅看護もさらにニーズが高まると思うので、患者さんが自宅で困ったときに確認できる動画を生成AIで作成すれば、自宅でも安心して治療や療養を続けられるようになりますよね。

    生成AIはあくまで業務を効率化し、本来看護師が行う患者さんのケアに、時間を注ぐための手段にすぎません。大事なのは看護の本質を見失わないことです。そこを見失ってしまうと、生成AIを使うこと自体が目的になってしまいます。現場の看護をしっかり支える“サポートツール”として、生成AIが普及していくことを願っています。

    働き方改革_長野市民病院

    撮影:遠藤 麻美
    画像提供:長野市民病院

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    施設名:長野市民病院
    住所:〒381-8551 長野県長野市大字富竹1333ー1
    開設:1995年6月
    病床数:400床 ※2026年9月現在
    ホームページ:https://www.hospital.nagano.nagano.jp/

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