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2023/4

小林光恵さんの おやすみコラム #006「窓でケア」

小林光恵さんの おやすみコラム #006「窓でケア」

先日、ネット検索していたら、20代後半頃に読んで感じ入った句にたまたま再会。

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夕風や柳吹き込む窓の内 
正岡子規
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柳の木、とくに垂れ柳が風を受けたときの枝先の揺れ方は独特。細く長い手を私は連想します。何本もの長い手が、春の夕方の風を受けて、窓の開いたところから内側に吹き込んでくる様子がありありと目に浮かび、その光景を作者と一緒に目にしたような感覚をもたらした作品です。

おもに採光・通風・眺望を目的とした窓の存在は、寝たきりとなった正岡子規のQOLを支えたことが、彼の多くの作品からわかります。子規の時代の日本には、まだ板ガラスがなかったそうで、輸入してまで障子の紙をガラスに替えたと思われます。ガラス窓にすることをすすめたという高浜虚子は、子規のQOLを高めるための貴重なケアをしたと言えるでしょう。

ネットで子規の句に再会した数日後の穏やかに晴れた午後。

最近、両眼は山型の三角で、口はへの字の不満顔を見せることの多い父(93歳、要介護1)が笑顔になってくれるのではないか。そう考えて私は、父がトイレからよろよろと戻りベッドに仰向けになったタイミングに、白いレースのカーテンを開けて春の陽射しをたっぷりと室内に入れ、父の位置からちょうど見える昼の月を指さして出ていることをおしえ、次に少し窓を開けて新鮮な外気を入れました。

するとどうでしょう。父は、みるみるうちに例の不満顔となり「寒い!」とひとこと。
窓でケア、失敗の巻。
勝手にやり過ぎました。
でも父は、私が退出すると昼の月をしばし眺めていたようです。母から聞きました。

著者/小林 光恵さん
元看護師。著述業。つくば市在住。
エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。

看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。2023年出版を目標に、ナイチンゲールの子孫が主人公の小説を鋭意執筆中。

<多数のメディアで連載中!>
●小説 『令和のナースマン』
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」
(Aナーシング 日経メディカル)
●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」
(Will Friends 日本看護学校協議会共済会)
●ドクターズコラム
(健達ねっと メディカル・ケア・サービス)
など

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