みんなの広場

2023/10

小林光恵さんの おやすみコラム #012「離常食というおくりもの」

小林光恵さんの おやすみコラム #012「離常食というおくりもの」

ほぼ寝たきりの状態で退院した母の食事形態は「極きざみとろみ食」。食材をやわらかく調理したあとに2mm角にきざみ、それにとろみづけをする。

私の食事と同じものを、きざんでとろみをつければいいだけだし、と軽く考えていましたが、食材に制限が多いなどの理由で、開始早々、母専用に作るように。また、包丁でのきざみには限界があり、フードプロセッサー、それも離乳食作り用を重宝することに。

母は自力で食事をはじめるものの、体力がないため途中で手が止まってしまうことが多く、そこからは私が介助します。食事介助というものは、食べる人と介助する人との共同作業なのだと改めて感じながら。タイミングを見てスプーンで口元に運ぶと、母はふわりと口を開き、食事を口内に受け入れ、味わうと、喉をゆっくりと上下させてゴクリと飲み込む。そして、おいしいと唇を動かしたり、口角を少しあげて微笑んだり…。二人してちらり目を合わせてうなずきあったりもする。満ち足りた感覚を覚えます。

それがあるので、手間がかかっても、少しでも美味しく食べてもらうために知恵をしぼり工夫をしながら作っていると、先日「離常食」という言葉が頭に浮かびました。軟から硬に移行する離乳食とは向かう方向が反対だけれど、食事を口に運ぶ人とそれを受け入れる人にとってかけがえのないシーンであることは同じかも。

子どもがおらず、離乳食を子の口に入れる経験をしなかった私への食の神様(あるいは母?)からのおくりものかも、とも思ったりもしています。

著者/小林 光恵さん
元看護師。著述業。つくば市在住。
エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。

看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。2023年出版を目標に、ナイチンゲールの子孫が主人公の小説を鋭意執筆中。

<多数のメディアで連載中!>
●小説 『令和のナースマン』
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」
(Aナーシング 日経メディカル)
●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」
(Will Friends 日本看護学校協議会共済会)
●ドクターズコラム
(健達ねっと メディカル・ケア・サービス)
など

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