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2023/6

小林光恵さんの おやすみコラム #008「輪ゴムにお詫び」

小林光恵さんの おやすみコラム #008「輪ゴムにお詫び」

デイサービスでパート勤務をしたときに、ラテックス製の膀胱留置カテーテルを留置している利用者さん(60代の男性)への想定外の対応を経験しました。伸びた陰毛がカテーテルにからみつくと非常に不快なため、からまない長さに毛をカットしてほしい、とご本人から希望があり、入浴時にハサミで実施。輪ゴムで髪を束ねたらひきつれて不快なのだから、たしかになあと納得しながら。その際、古い輪ゴムが使う際に劣化しておりひと箱の全部が使えなかったことや、実家の母が水道の蛇口に何本も輪ゴム――その中には謎の白い繊維がからみついているのがあったりする――をかけておく癖があることを思い出しました。

その後のある日、ヘルパーの女性・Aさんと、ゴムシーツやケリーパッドなどゴム製のケア用品の話をしていると、彼女がニコリとして言いました。
「私の中では、輪ゴムは優れたケア用品。例えば、菓子袋の口を止めたりするクリップは固くて危険だし、力がなくて使えない方もいますが、輪ゴムなら安全に使える。ほかにも輪ゴムはさまざまな場面で大活躍ですから。それと私、いつのまに手首に輪ゴムをはめている人を見ると、その人の暮らしの歴史の断片を目にした気がしてなんかうれしくなるんです」

なるほど、へえ、と思うと同時に、ゴム鉄砲で輪ゴムを飛ばした日のことや、肉屋さんで買ったコロッケの包みを止めている輪ゴムを指で弾きながら帰った昼のことなど楽しい記憶が一気に蘇り、低く評価していたことを輪ゴムにお詫びしました。

著者/小林 光恵さん
元看護師。著述業。つくば市在住。
エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。

看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。2023年出版を目標に、ナイチンゲールの子孫が主人公の小説を鋭意執筆中。

<多数のメディアで連載中!>
●小説 『令和のナースマン』
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」
(Aナーシング 日経メディカル)
●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」
(Will Friends 日本看護学校協議会共済会)
●ドクターズコラム
(健達ねっと メディカル・ケア・サービス)
など

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