【アーカイブ配信中】大島敏子さんのトーク番組「としこの部屋」 病気の子どもと家族の安全な暮らしとは
2025/6/18
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2025/7
この先、私はどんなキャリアを歩んでいくのだろう。将来のことを考えると、仕事だけじゃなく、お金の計画もきちんと立てなくては。でもこれ、誰に相談すればいいのかわからない……。
そんな看護師の皆さんのお悩みに、看護師の先輩であり、現在それぞれキャリアコンサルタント、ファイナンシャルプランナーとして活躍されている濱田安岐子さんと中林友美さんがズバリお答えします。第10回は、前回に続き、病院勤務のチヒロさんからの不妊治療と仕事の両立に関するご相談です。
看護師・チヒロさん(38歳/大学病院勤務10年目)のお悩み
不妊治療を始めてから2年目になります。これまで人工授精に複数回トライし、現在体外受精の治療を行っているところです。職場の上司には治療のことを伝えていますが、正直なところ不妊治療について理解が浸透しておらず、同僚には話していません。そのため不規則な診療と仕事をこの先も両立できるか不安です。また夫も正職員として働いていますが、治療費用の負担が大きく悩んでいます。
中林さんのアドバイス
仕事と不妊治療の両立に悩む看護師・チヒロさんへ、今回はもうひとつの大きな悩み「お金」について一緒に考えていきましょう。
不妊治療は、精神的にも体力的にも負担が大きいですが、費用の不安もまた、治療を継続するかどうかに大きく影響します。チヒロさんのように、夫婦共働きであっても経済的な重圧を感じる人は少なくありません。
では、不妊治療には実際どのくらいかかるのでしょうか? また、どんな制度が使えるかも気になるところですよね。
2022年4月から、不妊治療の一部が公的医療保険の適用対象となりました。これにより、人工授精、体外受精、顕微授精などが保険で受けられるようになり、費用負担は大きく軽減されました。
ただし、年齢や回数に制限があるので注意が必要です。
<公的医療保険の適用条件>
・体外受精・顕微授精は、治療開始時に女性が43歳未満であること
・40歳未満では1子につき通算6回、40〜43歳未満では通算3回までが保険対象
・ただし、タイミング法や人工授精には回数や年齢に制限がない
また、保険が使えるのは「指定医療機関」での治療に限られます。
不妊治療が公的医療保険の対象になったとはいえ、診察・検査・治療などの費用には原則3割の自己負担が必要です。高額療養費制度の適用により、月ごとの自己負担額には上限が設けられていますが、それでも一定の費用負担は避けられません。
例えば、体外受精1回あたりの自己負担額は、保険適用でもおよそ10万〜15万円が一般的です。加えて、保険の回数制限(年齢別に3〜6回)を超えると、それ以降の治療は全額自己負担となり、1回あたり30万〜50万円かかることもあります。
さらに、通院時の交通費、必要に応じた宿泊費、サプリメント代などの「治療以外の費用」と、通院や処置に伴う収入減も想定しておく必要があります。
費用負担を軽減するためには、以下のような制度も検討しましょう。
1. 高額療養費制度:医療費が一定額を超えた時に、超過分が払い戻される
2. 医療費控除:年間10万円を超える医療費は、確定申告で一部が戻ってくる
3. 自治体の助成金:地域によって独自の不妊治療助成制度がある場合も
制度を活用するには、「領収書の保管」や「申請時期の把握」も重要なポイントです。
不妊治療は身体・心・家計への負担が大きく、続けていくには現実的なラインの共有が不可欠です。“これがあれば必ず叶う”という保証がないからこそ、不安や迷いを抱えやすいもの。そんな時は、結果ではなく「プロセス」にお金をかけているという視点をもってみましょう。
「結果が出なければ意味がなかった」と思い詰めるのではなく、“自分たちが納得できる時間と選択のために使ったお金だった”と振り返られること。それこそが、ふたりで選んだ時間とお金の意味を支えるのだと思います。
例えば、「何回まで治療を続けるか」「家計からいくらまで出せるか」「年齢や時期の節目で区切るか」といった視点を話し合っておくことで、治療の結果に揺さぶられすぎず、自分たちなりの軸をもって冷静に向き合うことができます。
将来の選択肢を残しておくためにも、こうした準備はふたりで取り組む“共同作業”として、かけがえのない時間になるはずです。治療方針やお金の話だけでなく、感情や迷いもふくめて主語を「私たち」として共有していくことが大切です。
妊娠・出産にたどり着いた場合も、そこから本格的に子育てにかかる費用の出費が始まります。もし、不妊治療にすべての力と資金を注ぎ込んでいたとしたら、その先の生活が苦しくなってしまい、せっかくの子育てを楽しめなくなる――それでは本末転倒です。
一方で、妊娠に至らなかった時に「あの時精一杯やったよね」と互いにねぎらえるようなプロセスの共有と納得もまた、お金と心を守るうえで欠かせません。「あの時もっとできたかも……」という後悔をなるべく減らすためにも、治療の“結果”だけではなく、その過程をどうふたりで過ごしたか。それこそが、これから先の人生にとっても、大切な意味をもつのだと思います。
治療を受ける立場になることは、自分の身体と向き合い、自分をケアする経験でもあります。そしてそれは、他者をケアする看護職としての学びにもつながります。
仕事と治療を両立するのは本当に大変なこと。とくに、お金に関するジレンマも経験したのなら、その気持ちは患者さんに寄り添う力になるはずです。「この経験が、いつか患者さんの理解に活かせるかもしれない」と思えた時、少しだけ気持ちが前を向くかもしれません。
誰かの人生を支えるあなたが、自分の人生に真剣に向き合い、「ふたりで選んだ時間」も大切にできますように。心から応援しています。
<参考資料>
不妊治療の保険適用や自治体支援、夫婦への支援などに関して
子ども家庭庁「不妊治療に関する取り組み」
不妊治療と仕事の両立に関して
厚生労働省 不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック 令和7年3月
【こちらも合わせて読む】
看護師のためのマネー&キャリア相談室#09「仕事と不妊治療の両立」
看護師のためのマネー&キャリア相談室#08「後悔しない訪問看護への転職」
濱田 安岐子さん NPO法人看護職キャリアサポート/株式会社はたらく幸せ研究所 代表 看護師/国家資格キャリアコンサルタント/ハラスメント相談員 看護師臨床11年、看護教員3年を経験した後、2006年からフリーランスとして独立。2010年、NPO法人看護職キャリアサポートを設立し、看護師が元気に自分らしくキャリアを継続できるように活動中。2018年には、株式会社はたらく幸せ研究所を設立。健康と幸福学で幸せに働ける社会を目指している。 | 中林 友美さん フローレンス FP オフィス 代表 看護師/ファイナンシャルプランナー/国家資格キャリアコンサルタント 長らくがん看護に従事し副看護師長を経験後、FPなどの資格を取得。多忙で自分のことをつい後回しにしてしまう看護師が自分らしく輝く人生を歩むために、2019年よりフローレンスFPオフィスを立ち上げ、日々活動中。 |
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