仕事と子育ての両立は不可能どころか“よいこと”ばかり
2023/2/28
アンケート
2025/5
20255>
慢性的な労働力不足を背景に、近年、各所で育児や介護と仕事の両立支援の取り組みが広がり始めています。特に女性の多い看護・介護業界においては、結婚や出産、介護を理由とする離職が多く、個々のライフステージに応じた柔軟な働き方の見直しが重要課題となっています。では実際に育児や介護を経験した看護・介護職の方々は、仕事との両立についてどのようなことを感じているのでしょうか。読者の皆さんにお聞きしました。
今回の未来ワードは
育児しながら仕事をした経験(n=37)
利用したことがある働き方の制度や育児支援サービス(n=24)
育児しながら仕事をした経験がある人に、利用したことのある働き方の制度や支援サービスを聞いたところ、約半数の人が「短時間勤務」(n=11)を利用していることがわかりました。年代や医療・福祉の業界間の差はなく、約半数の利用にとどまっていることが少し意外でした。
現行の育児・介護休業法(以下、育休法)では、事業所は3歳未満の子どもがいる労働者が希望すれば、短時間勤務(1日6時間以内の勤務)の措置を講じなければいけません。ところが事業所の規模や人員状況によっては、十分に措置を講じられないところも出てくるのでしょう。利用率の低さからそんな現実の難しさを感じました。
「夜勤免除制度」を利用している人(n=4)がとても少ないことも意外でした。育休法では就学前の子どもがいる従業員は夜勤免除の対象となり、実際、夜勤ができない理由として「子どもの世話」が最も高いことが日本看護協会の調査※1でも示されていました。免除制度を利用できていない人が一定数いるということなのでしょうか。
仕事と家事・育児の両立で困ったこと、ストレスを感じたこと(n=24)
育児や家事との両立で困った、またはストレスに感じたこととして「子どもと過ごす時間が十分にとれない」(n=13)が最も高く、他には「子どもの体調不良など突発的な対応」「学校行事に参加できない」など、子どもとの時間の確保に対して不満を抱えている人が多いようです。
ちなみに、育休法の改正で子どもの看護休暇の対象年齢が、就学前から小学校3年生修了時まで引き上げられましたね※2。ただ1年間で5回という取得可能日数は変わらないため、改正による効果があるかどうかは、これから注目したいところです。
半数の人が「自分の時間や休息が十分にとれない」と回答していることも気になります。勤務中の休憩時もナースコールへの対応で気が休まらないだとか、少人数を補填するために対応しないといけないといったケースもあるのでしょう。24時間体制でご利用者のケアを行っている介護施設・訪問サービスの方々にとっても、十分な休息を取ることがいかに大変かということが分かります。
<関連記事>
ナースコールから解放される休憩時間を確保し、夜勤の負担を軽減
仕事と家事・育児の両立のために、職場に必要だと思う制度やサポート(n=37)
約75%の人が、仕事と家事・育児の両立のためには「多様な休暇制度」が必要だと回答。次いで「柔軟な労働時間(労働時間の変更やフレックス制など)」が多い結果となりました。
「柔軟な労働時間の体制がないゆえに必要以上に休むことになり、そのぶん周囲の負担を増やし、本末転倒なことになっていました。育児しながらの勤務について、0か100か、白か黒かだけでないグラデーションをもって働かせてほしいと思いました」(30代・社会福祉士(ケアハウス))
人員不足による業務量の過多や業務配分などの事情を考えると、多様で柔軟な働き方の導入は簡単ではないと思います。他方で、少人数ながらも独自の休暇制度を採り入れている医療機関もあります。例えば、ある地域の歯科医院では従業員のニーズに応じて、女性特有の体調不良をサポートする「エフ休暇」やボランティア休暇など多様な休暇制度を採り入れ、従業員のWLBやサービスの向上を目指しているそうです。※3
※3 働き方・休み方改善ポータルサイトより
介護しながら仕事をした経験(n=37)
仕事と介護の両立で困ったこと、ストレスを感じたこと(n=10)
仕事と介護の両立のために、職場に必要だと思う制度やサポート(n=10)
今回の調査では、介護経験のある人の全体数が少ないものの、経験したことのある人の半数以上が「自分の時間や休息が十分に取れない」(n=6)をストレスの理由として挙げていました。
家族の介護や看護を理由にした離職が社会課題になっていますが、一般的な介護離職の理由として「勤務先の両立支援制度の問題や介護休業が取りづらい雰囲気」が一番多いという調査結果※4もあります。適切な休業・休暇期間を必要としていながらも、仕事を続けながらでは取得できない方が多いのかもしれません。必要だと思う制度やサポートとして、「多様な休暇制度」という回答が最も多かったです。また半数の人が「介護支援にかかる経済的支援」と答えたのには、給与事情との関係もあるかもしれません。
回答者の中には、「十分なサポート体制がなく、家族の支援も受けられず育児のため退職しなければならなかった」(60代・看護師・病院勤務)という切実なコメントも。育休法などの整備が進められる一方で、「特別な働き方の制度を導入していない」病院が約6割と高止まりしている現状もあります※5。
今回の調査では、「多様な休暇制度」と「柔軟な労働時間」が、仕事と育児・介護の両立のカギを握っていることがわかりました。多様な休み方を制度として機能させることは簡単ではありませんが、余裕をもたせた枠組みの中で個々のニーズや困りごとに応じていくことが、今後さらに求められていくのではないかと思います。
次回は、皆さんの「休み方」についてアンケートを実施予定です。ぜひ、ご意見をお聞かせください。
※5 「2024年病院看護実態調査」(日本看護協会)
取材で病院などを訪れると、育児中の看護師が多く活躍しているという声をちらほら耳にすることがあります。その裏では、保育園の併設などハード面のサポートが役立っていることも考えられますが、職場内の先輩や同僚の理解や共感を得られていることも大きな要素となっていることもたしかです。この“お互い様”の精神がいい方向で制度と相互作用して、多様性が受容される環境が増えていくといいですね。
SNSでシェアする