PFMが病院内外にもたらしたメリット
PFMによるメリットは非常に多岐にわたります。前編では、柱となる動きの中でもいくつか触れてきましたが、ここであらためて主なメリットについてご紹介しましょう。
まず、看護部によるベッドコントロール導入では、スムーズな救急の受け入れが可能になったことや、患者情報の共有化がしやすくなったという点はもちろん、導入当初は懐疑的だったドクターから、「負担が減り、今まで以上に治療に専念できるようになった」といった意見もありました。また、病院全体で病床を共有するという考え方が浸透したことで、医師、看護師ともに自分の部署のことばかりを考えないように、いわゆるセクショナリズムの打破にも貢献していると思われます。
PFMという仕組みが軸になることで、ほかの医療スタッフとの連携がスムーズになったとも感じています。これは、ベッドコントロールや入院前面談などに携わることで、治療方針や退院へのプロセスの認識など、医師との間で統一すべき認識が増え、医師、看護師間のコミュニケーションが活性化したことが大きいと考えます。コメディカルに対しても、たとえばPFM以前にはありえなかった、外来時点での入院に向けたリハビリや栄養指導などの依頼など、コミュニケーションの機会は格段に増加しています。患者を中心として、自然と医療スタッフがまとまっていく。そんなチーム医療の推進においてもPFMの果たす役割は大きいと考えます。
PFM導入が在宅医療の後押しに
▲患者とその家族はさまざまな思いで葛藤している
たとえば、PFM導入以降の大きな変化の一つに在宅での看取りの増加があります。70歳代女性の大腸がんの患者のケースですが、検査目的での紹介受診後、外来から救急入院となり、腹水の細胞診からクラスⅤと診断されました。高齢で、脳梗塞の併発や体力面の問題などもあり、手術や化学療法の適応はなく、今後は緩和ケアでの対応となること、また、予後も半年程度と予想されました。こうした状況で、ご主人と娘さんは、「もう自宅での世話は無理かな?」と弱気になりつつも、本音の部分では、「最期まで面倒をみたい!」という気持ちが見てとれました。その想いは「迷惑をかけたくない、でも……」と、在宅復帰を願う患者と同じものでした。
そこで当院では、介護保険と在宅医療をフル活用した生活支援を提案しました。そうしたことを知らなかったという娘さんに、実は地域に緩和医療に非常に優れた在宅医がいることや、24時間対応の訪問看護ステーションがあることをお伝えしました。また、介護保険の区分変更申請をすることで、より手厚い介護が受けられることなどもお話しし、家族で相談していただくことに。結果、ご主人と娘さんの「最期を自宅で過ごさせてください!」という返答から、退院後のケアを担当する訪問看護師、ケアマネジャーも同席のうえ、早々に退院前カンファレンスを実施することとなり、入院からおよそ1週間で自宅退院となりました。
こうした現実に直面したとき、つくづく病院完結の看護ではダメなんだと実感するとともに、患者の想いがかなえられたという大きな達成感も感じました。こうした貴重な財産は、看護職にとっての大きなモチベーションにつながっていくと思います。
さまざまな側面からメリットを挙げてまいりましたが、こうしたすべての成果により、病床稼働率は、PFM導入前の82%から90%台となり、手術件数、新規入院数も増加し、在院日数は12.4日から10.4日へと短縮されました。その結果、経営面も大幅に改善され、黒字化することができました。
明確なビジョンとブレない想いで粘り強く取り組むべき
さて、ここまでPFMに関して、導入のポイントやさまざまなメリットについてお話してまいりましたが、最後に、導入にあたって注意したい点をいくつか挙げてみたいと思います。
▲葛飾医療センター(旧 青戸病院)の経営指標グラフ。病床稼働率や新規入院患者が増加している
最初に、かなり根本的な部分ですが、そもそも「絶対に自院においてPFMを成功させる!」という意思決定がなければ、たぶん途中で失敗していたと思うのです。そして、そうした強固な意志決定のためには、「PFMを導入した際の病院における全体像のイメージ」をもっておくことが必須です。
ここで重要なのが、PFMは、たとえて言うなら、汎用パッケージソフトではなく、オーダーメイドの自社開発ソフトであるという点です。私たちは、東海大学医学部付属病院、ひいては田中先生の理念・ロジックはいただきましたが、ノウハウをいただいたわけではありません。具体的なイメージをもつためには、PFMによって病院をどうしていきたいのかという明確なビジョンと方向性が求められます。
たとえば青戸病院の場合、導入前の状況を振り返ると、ちょうど病院のリニューアルに伴う新ビジョン構築というミッションが掲げられ、赤字経営、病床稼働率低下、顔の見えない地域連携など、解決すべき課題は山積みの状態でした。しかし、逆にいえば、これらはPFMがうまく機能すれば改善が図れるという、タイミング的にはかなりいい導入時期だったと思われます。
こうした背景から私たちは、在院日数の短縮(適正化)や病床稼働率・回転率の向上といった「病院経営上の課題のクリア」、さらに、早期退院に対する抵抗感と不安を軽減し、患者が安心して治療に臨める「より良い医療提供」を目標に、「患者の入退院の「コーディネート機能」を目的としたPFMシステム導入」を決定しました。
ブレない核を作り、病院全体の意思を統一させる
病院全体での意思統一もPFM成功には欠かせない要因です。この点に関しても、病院リニューアルという過程での一大改革という点で、病院幹部の方たちと意識の共有はしやすかったです。とはいえ、新たなものに対する理解や先入観など、導入当初から病院全体が一枚岩だったわけではありません。そう考えたとき、まず第一に、看護部のなかで意識を固めていけたことが非常に大きかったと思います。
プロジェクトリーダーを中心に何度も試行錯誤を繰り返しながら、ケースマネジメントを経て、段々と全体化していく。その過程の中では、ドクターやコメディカル、師長たちと、患者、医療者、地域、経営すべてにおいてメリットのあるPFMの考え方について、繰り返し議論を重ねました。
また、導入早期には迷うことも多くありました。たとえば、入院前面談が重要という点を履き違え「いかに質問事項の記入欄をすべてしっかり埋めるか」や「アナムネを取ることが目的だ」と、形に捉われてしまうことも。ただ、そんなときでも、常にブレない核となる考え方があれば、一旦そこに引き返すことができます。迷って、引き返して、また迷って、それを何十回と繰り返すなかで、徐々に形になっていったのが、葛飾医療センター(旧 青戸病院)のPFMです。決して最初からうまくいったわけではないのです。
病院の規模や機能、立地などによってもPFMの導入スタイルは変わります。実際、同じグループの東京慈恵会医科大学付属柏病院に異動した際にもPFMの導入に携わらせていただきましたが、基本は同じながらも、葛飾医療センター(旧 青戸病院)の2倍弱の病床数で地域の拠点を担う急性期病院ということで、プロジェクト自体の規模が大きくなったほか、院内外でのオペレーションなども異なるものになりました。
地域包括ケアシステム推進による病院での在院期間短縮の動きに加え、今年度の診療報酬改定により、入院前からの支援を行った場合の評価の新設として、新たに入院時支援加算が算定されるなど、今後さらに期待が高まっていくことが予測されるPFMというシステム。あなたの職場では、どのような関わり方ができるのか。これを機会にお考えになってみるのもいいかもしれません。