インタビューアーカイブ

2016/10

がん患者の苦痛をやわらげる漢方。 東西両医学を併用したがん研有明病院の最新がん治療(前編)

がん治療においては、がんおよび治療に伴うさまざまな症状の緩和は、非常に大きな課題です。わが国で最先端のがん治療を行うがん研有明病院では、10年以上前に漢方サポート外来が開設され、漢方薬で症状を緩和し、QOLの高いがん治療が行われています。西洋医学と漢方医学を併用したがん治療の現状と今後の展開について、漢方サポート科部長の星野惠津夫さんにお話をうかがいました。

星野 惠津夫

がん研有明病院 漢方サポート科部長

がん患者の症状緩和に役立つ漢方薬

がんおよびがん治療には、痛みをはじめとしてさまざまな不快な症状が伴います。副作用のあまりに辛いため泣く泣く治療を断念するほど、苦しい治療となることもあります。患者ががんとうまく闘うためには、治療に伴う辛い症状の緩和が欠かせないのです。

「緩和ケア」は、2002年のWHOの定義では、終末期だけでなく、重大な病気にかかった早期から開始すべき苦痛の予防と緩和のアプローチとされています。
完治や延命を目指す積極的ながん治療中にも、さまざまな症状の緩和は重要です。治療が楽になれば、患者さんの身体的・心理的負担は減り、前向きに治療が継続でき、治療の効果が高まるからです。

がんの治療に伴う苦痛を除く手段として、現在注目されているのが漢方薬です。新薬と使い分け、あるいは併用することにより、さまざまな症状を和らげることができます。
私は、2006年にがん研有明病院に、院内のがん患者を対象に、がんおよび治療に伴う苦痛の緩和を目的として、漢方サポート外来を開きました。日本最高峰のがん専門病院である当院で、漢方を用いたがん治療の実績をあげることができれば、大学病院やがん専門病院の医師に向けて漢方の有用性を発信できると考えたからです。

 

漢方を用いた統合医療はがん患者のQOLを高める

漢方サポート外来では、西洋医学的にうまく治療ができない患者に対して漢方薬を投与し、さらに食餌・運動・温熱・祈り・サプリなどさまざまな補完的治療法を指導します。
がんに伴う苦痛は、原因が複雑に絡み合っているため、西洋医学的な一元的考え方だけではうまく対処できず、心と身体を包括的にとらえる東洋医学的アプローチを加えて初めて効果が得られることが多いのです。

そこで、漢方をはじめとする東洋医学の治療法と西洋医学の治療法を併用した「がんに対する統合医療」を確立し、それぞれの医学の優れた特性を最大限に活かし、患者の負担が少なく、治療効果の大きいがん医療を提供しています。

漢方薬は新薬と異なり、がんそのものに作用するものではありません。がんやがん治療に伴うさまざまな苦痛を和らげ、さらにがん患者によく見られるだるさ、冷え、下痢や便秘、頻尿、食欲不振、不眠、不安などの症状を改善することにより、患者を元気にするのです。
その理由は、漢方薬が人体という生体システムの中枢(神経・免疫・内分泌系)に作用する、ハイグレードな薬だからです。漢方薬は効果が大きい割に副作用は比較的少ないため、QOLの高いがん治療が可能となるのです。

さらに漢方薬は、がん免疫を担当するリンパ球やマクロファージなどの細胞の働きを高めることにより、間接的に抗がん作用を発揮します。西洋医学による治療とうまく組み合わせれば、これまでよりもはるかに楽で効果的ながん治療が行えるのです。

 

西洋医学と東洋医学の「いいとこどり」の統合医療

漢方による統合医療は、漢方のみに頼り西洋医学を捨てるものではなく、西洋医学と漢方の「いいとこどり」の治療です。それぞれの患者の状態に応じて、新薬と漢方薬を適材適所で使い分け、あるいは併用していきます。

例えば、抗がん剤による手足のしびれの予防や治療には、神経障害性疼痛の特効薬とされる新薬よりも、漢方薬の「牛車腎気丸+附子末」などを用いた方が、副作用が少なく効果も大きいのです。
また、例えば抗がん剤や放射線治療による口内炎に対しては、漢方では半夏瀉心湯がしばしば用いられますが、実は新薬のレバミピド(ムコスタ)の水溶液によるうがいの方が、効果が大きいのです。

がん患者には、通常免疫力を高めて冷えを改善する漢方薬が必要ですので、なるべく他の漢方薬との併用は避けたいのです。口内炎のように新薬で十分対処できるものは、新薬に任せるべきなのです。


漢方ががん治療にどのようにもちいられるのか、知ることができましたか?
これだけ有用な漢方薬を用いたがん治療がなぜ進まないのか、
後編では、医師の漢方教育の現状をはじめとした、漢方浸透のための課題をレポートします。

 

西洋医学と東洋医学の「いいとこどり」の統合医療

漢方による統合医療は、漢方のみに頼り西洋医学を捨てるものではなく、西洋医学と漢方の「いいとこどり」の治療です。それぞれの患者の状態に応じて、新薬と漢方薬を適材適所で使い分け、あるいは併用していきます。

例えば、抗がん剤による手足のしびれの予防や治療には、神経障害性疼痛の特効薬とされる新薬よりも、漢方薬の「牛車腎気丸+附子末」などを用いた方が、副作用が少なく効果も大きいのです。
また、例えば抗がん剤や放射線治療による口内炎に対しては、漢方では半夏瀉心湯がしばしば用いられますが、実は新薬のレバミピド(ムコスタ)の水溶液によるうがいの方が、効果が大きいのです。

がん患者には、通常免疫力を高めて冷えを改善する漢方薬が必要ですので、なるべく他の漢方薬との併用は避けたいのです。口内炎のように新薬で十分対処できるものは、新薬に任せるべきなのです。


漢方ががん治療にどのようにもちいられるのか、知ることができましたか?
これだけ有用な漢方薬を用いたがん治療がなぜ進まないのか、
後編では、医師の漢方教育の現状をはじめとした、漢方浸透のための課題をレポートします。

星野 惠津夫

がん研有明病院
漢方サポート科部長

【略歴】
1979年
東京大学医学部卒業
1984年
東京大学 第1内科助手
1986年
トロント大学 消化器科リサーチフェロー
2006年
がん研有明病院内に漢方サポート外来を設立
2009年
がん研有明病院消化器内科部長

【資格】
聖マリアンナ医科大学臨床教授
米国消化器病学会(AGA)フェロー

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