小林光恵さんの おやすみコラム #016「名前は、呪(しゅ)だから」
2024/2/14
みんなの広場
2025/1
「私を不採用って。それに、どうしてその言葉なんですか?」
看護師のAさんは緩和ケア病棟へと移ることになっている男性患者Bさんに問いました。
「ふと頭に浮かんだだけです。とにかく今後、私の担当を外れていただきたい。理由はお伝えできません」
「ひどいです!」
Aさんはきゅっと結んだ唇を震わせながらその場をあとにしました。
彼女は、大学(文系学部)時代の就活の際に連日「不採用通知」が届き、また、その理由が知らされないことに大きなストレスを感じ、心機一転、看護学部に編入して看護師になり、病院に就職したのです。
無口で気難しい雰囲気のBさんでしたが、Aさんとだけは話が弾みました。そんなBさんに、Aさんは自身が看護学部に編入したきっかけについて打ち明けたのでした。
経緯をわかっている上で「不採用」という言葉を使い、さらに担当を外れてほしい理由も明かさないのは、患者さんと言えども許せない仕打ちだとAさんは思いました。
その4カ月後、緩和ケア病棟のナースがAさんを訪ねてきて、Bさんが亡くなったことを告げ、次のように付け加えました。
「20年ほど前に亡くなった最愛の女性にAさんがよく似ていたそうです。本気で真っすぐに怒るところも同じかもと思ったら、そっくりだったって。これ以上接したら、Aさんに崩れるように甘えてしまいそうだと思って、あんなひどいことを言った、申し訳なかった、と伝えてほしいとのことでした」
これを聞いて以来Aさんは、ときどき見ていた就活時代の不採用通知にちなんだ悪夢を見なくなったそうです。
著者/小林 光恵さん | 元看護師。著述業。つくば市在住。 エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。 看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。 <新刊情報> ナイチンゲールの子孫が主人公の小説 『ナイチンゲール7世』(イースト・プレス)が発売中! <多数のメディアで連載中!> ●小説 『令和のナースマン』 (月刊ナーシングキャンバス 株式会社Gakken) ●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」 (月刊ナーシング 株式会社Gakken) ●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」 (Aナーシング 日経メディカル) ●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」 (Will Friends 日本看護学校協議会共済会) ●ドクターズコラム (健達ねっと メディカル・ケア・サービス) など |
SNSでシェアする