小林光恵さんの おやすみコラム #016「名前は、呪(しゅ)だから」
2024/2/14
みんなの広場
2025/5
私のせいで、貴重な介護人材をひとり失ってしまったかも……、と、このところ反省していました。
お母様を在宅で介護・看取りをしたRさん(40代)は、その経験から、介護職志望の人となり、準備をはじめていました。その彼女が、旅行のお土産を届けに私の自宅に寄ってくれたのですが、その際に私は受けたばかりの褥瘡ケアの研修について嬉々として語ったのでした。体圧除圧グローブを使用して、実際に圧抜きをしてもらった体験も含めてです。
「体動できない方が、上半身をベッドアップされただけでも、圧抜きしないと、どれだけずれや圧迫が生じてつらいのか、想像できたよ!」
そして私は、敷物をすればするほど床ずれ予防マットレスの機能が阻害されるというレクチャーがあったことも付け加え、最後にこうしめくくったのです。
「その講師の先生がね、タオルは石、って言ってた。ドキリとする言葉だよね」
するとRさんは、急に奥歯でも痛み出したかのように顎に手を当て、眉間にしわを寄せて私に、
「私、石をいっぱい、寝ている母の身体の下に敷いていたんですね」
と言うとぼろぼろと涙をこぼしはじめ、
「私、介護職向いてないかもですね!」
と言い捨てて、帰っていきました。名前を呼んでも振り向かず、とりつくしまもない雰囲気で。
メールをしても返信がなく、電話はしそびれたまま日が経っていたのです。
そんなRさんから、ついさきほど長文メールが届きました。事務職から介護職に転身することに不安を感じはじめたタイミングだったのと、タオルに思い入れがあったため過剰反応してしまった、そしてやはり介護職になりたいと思う、と。
よかったー。
著者/小林 光恵さん | 元看護師。著述業。つくば市在住。 エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。 看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。 <新刊情報> ナイチンゲールの子孫が主人公の小説 『ナイチンゲール7世』(イースト・プレス)が発売中! <多数のメディアで連載中!> ●小説 『令和のナースマン』 (月刊ナーシングキャンバス 株式会社Gakken) ●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」 (月刊ナーシング 株式会社Gakken) ●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」 (Aナーシング 日経メディカル) ●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」 (Will Friends 日本看護学校協議会共済会) ●ドクターズコラム (健達ねっと メディカル・ケア・サービス) など |
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