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2026/4

小林光恵さんの おやすみコラム #042「生活の音」

小林光恵さんの おやすみコラム #042「生活の音」

看護師の秀美さんは、交通事故で両親を亡くした中学1年時から大学4年までの約10年間、母方のおじい様とふたり暮らしをしたそうです。
彼女が大学4年生の秋。体調を崩して入院したヤスアキさん(おじい様を彼女はそう呼ぶ)は、「平日の夕飯前1時間くらいの、いつもの生活してる音を録音してきて」と彼女に依頼。
彼女は、テレビ番組の音、「お風呂が沸きました」の声、洗濯機を回す音、お茶を注ぐ音、などなど、を録音して病室に届けました。
するとヤスアキさんから、まさかのダメダシ。
「秀美がいつも発している音がぜんぜんとれていない。トイレのドアを音を立てて閉める、スリッパでぺたぺたと音をさせて歩く、流しの生ごみ受けにたまったのを取るために裏返してがんがんやる、<やっぱ、炊き立ては美味しい>って毎度言う、料理をつくる時に出る鼻歌はなぜかいつも<かえるのうた>、ときどき鼻をチンとかむ……それと」
そんなにガサツに音を立ててはいない! と言い返して彼女はむくれたものの、ヤスアキさんが居間にいる気持ちになって再録し、改めて届けました。
それを聴き終えるとヤスアキさんは「そうだ、これがいつもの生活の音だ。今後、私がもしいなくなっても、こういう音を立てて生活するんだぞ。秀美は、優秀な看護師になるかどうかはわからないが、素敵な看護師になることだけは間違いない。私が保証する」と言って大きく頷いたそうです。その3カ月後、ヤスアキさんは亡くなりました。
この再録した約1時間の音を聴き直すと、ヤスアキさんの言葉を思い出すことができて深く落ち込まずに済むため、かけがえのない宝物だそうです。

著者/小林 光恵さん
元看護師。著述業。つくば市在住。
エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。

看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。

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●小説『ナイチンゲール7世』
(イースト・プレス)
●小説 『令和のナースマン』
(月刊ナーシングキャンバス 株式会社Gakken)
●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」
(Aナーシング 日経メディカル)
●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」
(Will Friends 日本看護学校協議会共済会)
●ドクターズコラム
(健達ねっと メディカル・ケア・サービス)
など

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