被災された方々を身心の両面からサポートする災害支援ナースは、自然災害の多い日本においてとても重要な役割を担っています。今回は、災害支援ナースの養成研修を修了した岡野寛大さんを取材。まだ被災地での支援経験はないものの、人命救助への熱い想いをもち、看護の底上げや後輩育成にも全力で取り組む岡野さんに、研修での学びや今後の展望などをうかがいました。
資格のチカラ
2024/3
厚生労働省医政局が実施する災害支援ナース養成研修を修了し、厚生労働省医政局に登録された看護師のこと。被災地などに派遣され、地域住民の健康維持・確保に必要な看護活動を提供するとともに、現地の看護職員の心身の負担を軽減するためのサポートを行います。2024年4月1日からは、改正医療法に基づき「災害・感染症医療業務従事者」としての登録、派遣がスタート。自然災害時だけでなく、新興感染症発生・まん延時にも派遣されることになりました。
養成研修修了(新制度):2024年2月
社会福祉法人恩賜財団済生会 支部東京都済生会
東京都済生会向島病院
看護師
被災された方々を身心の両面からサポートする災害支援ナースは、自然災害の多い日本においてとても重要な役割を担っています。今回は、災害支援ナースの養成研修を修了した岡野寛大さんを取材。まだ被災地での支援経験はないものの、人命救助への熱い想いをもち、看護の底上げや後輩育成にも全力で取り組む岡野さんに、研修での学びや今後の展望などをうかがいました。
前制度下での研修との違いはありましたか?
新興感染症に関する研修が増えたのが一番の違いです。また、被災地への派遣事例が増えている点も大きな違いでした。私が最初に受講した時は、実体験としての話は東日本大震災のみだったのですが、今回の研修ではそれ以降に発生した被災地での経験談を聞くことができました。
多くの事例を聞く中で、避難所でのルールなどが少しずつ変わっていることに気づきました。例えば、東日本大震災後とは異なり、現在では仕切りを設置する避難所も増えているそうです。感染症対策としてはもちろん、プライベート空間の確保が重要視されるようになったことが理由ですが、そういった部分にも目を配る必要があるのだと、あらためて知る機会となりました。
再度研修を受けたことで、知識がさらに深まったのですね。
そうですね。災害が発生しないことが何より望ましいですが、学習する事例の数が多いほど、被災地でのサポート方法や災害支援ナースに求められる役割、各所との連携の仕方などが少しずつ具体的にわかってきます。研修は5年ごとに受ける必要がありますが、自分自身でも情報収集や勉強を続けて、知識をアップデートしていきたいと強く思いました。
▲「オンデマンド研修は基本的に自宅で受講していましたが、病院の許可を得て、夜勤の休憩時間中などにも学習時間を確保するように工夫しました」と岡野さん
研修では、どのような学びや刺激があったのでしょうか?
自分の考えの甘さに気づけたことが一番大きかったです。被災地へは、「絶対にみんなを助ける!」という強い気持ちで向かうがゆえに、ある種の興奮状態になり、自分を抑えられなくなることがあるという話を聞きました。でも、現実には救えない命があったり、救命の優先順位をつけなければいけない場面もあります。そういった中で、どうやって気持ちの整理をつけるのか。支援経験のある皆さんが、知識を踏まえて冷静に行動することが大事だとおっしゃっていたので、肝に銘じたいと思いました。
グループワークのメンバーからも経験談を聞かれたのですよね?
はい、「被災者の方への言葉がけがとても難しい」という言葉も印象に残っています。最終日まではよい関係を築いていた被災者の方と最後に会話をした際に、何気なくかけた言葉が原因で、関係性が崩れてしまったそうです。その話を聞いた時に、「言葉の重さ」をあらためて感じました。
被災された方の気持ちをいかに汲み取り、どう行動して、どんな声がけができるのか……。これは災害現場に限らず、日々の勤務でも模索していることです。患者さんとの関わりだけでなく、スタッフ間のコミュニケーションでも、笑顔で挨拶をしたり、感謝の言葉をかけ合ったりするだけでも、チームワークがより深まりますよね。看護業務は「人と人との関わり」が根底にあるものなので、これまでの自分の言動を見直すきっかけにもなりました。
▲病棟での撮影のひとコマ。先輩や同僚ナースとの良好なコミュニケーションの様子がうかがえた
研修を修了されてから、現在の仕事に変化はありましたか?
今、勉強会の開催を計画しています。養成研修を通して学んだことを、職場の皆さんにも伝えたいと考えています。特に、患者さんやご家族への声がけや言葉づかいについて学んだことは、自分たちの病棟をよりよくするためにも役立つ知識だと思います。より多くの患者さんに私たちの病院を選んでもらい、気持ちよく過ごしていただくためにも、研修での学びを活かしたいですね。
災害支援ナースとして、今後どんなことに挑戦したいですか?
私はまだ、災害現場に派遣された経験がないので、もし次に要請があった場合は行きたいと思っています。そして、そこでの経験を病院に持ち返り、情報共有をすることで、勤務先の看護業務の底上げにも貢献していきたいです。
また、自然災害は日本に限らず世界各地で発生するものなので、グループワークで一緒だった海外支援の経験がある方のように、私も英語を学び、国内外問わずより多くの被災者の方の役に立ちたいという想いもあります。
▲災害支援ナースの知識だけでなく、グループワークで聞いた他病院での取り組み事例や工夫なども病棟で情報共有していく予定なのだそう
最後に、岡野さんが考える災害支援ナースの重要性や役割とは何かをお聞かせください。
最初は、被災地で怪我をされた方を医師と一緒に治療したり、感染症対策を行ったりすることが災害支援ナースの役割だと思っていました。もちろんそれも重要ですが、医師には相談しづらいことがあれば、それに気づいて傾聴し、慣れない避難所生活で生じる不安をやわらげるようなサポートをするなど、メンタル面のサポートも重要な役割の一つなのだと実感しました。
普段の勤務でも、患者さんやご家族に「何でも相談してくださいね」と伝えてはいるのですが、実際に相談してくださる方は多くありません。その結果、最終的に不満が爆発してしまう方もいらっしゃいます。日々、いかにして心の負担を少しずつ軽減できるのか。看護師だからこそできることもあると思うので、親身になって話をお聞きするなど常日頃から心がけていきたいです。
災害支援ナースを目指す方の中には、「困っている人を助けたい」という信念をもっている方も多いのではないでしょうか。そういった、自分自身と向き合うという点でも災害支援ナースはとてもよい経験になると思っています。災害支援ナースを目指す方が増えて、現場や研修での学びをご自身の職場に持ち返り、みんなでよりよい看護を目指していけたらうれしいです。
写真:井上 亮
被災地での支援活動を行う災害支援ナースですが、支援の際に被災地に迷惑をかけないことが大原則です。看護活動に使用する道具はもちろん、食糧や飲み物もすべて自分で用意する必要があります。特に被災地では断水していることが多く、生活用水のことも考慮して十分な量の水を持参することが大切です。要請があってから派遣されるまでの準備期間は短いこともあるので、かばんには必要な物をパッキングして準備万全にしています!(岡野さん)
◆持ち物リスト◆
身分証明書、保険証のコピー、現金、 ラジオ付きライト、ランタン、乾電池式充電器、単三電池20本、非常用トイレセット、マスク、ティッシュ、救急道具、身体拭きシート、ウェットティッシュ、歯磨きセット、カイロ、アルミシート、ウォータータンク、水6リットル、食糧(おにぎり、ビスケット、せんべいなど)、オムツ、子ども用着替え、おしり拭き、アルコールスプレー、抱っこ紐、寝袋、ゴム手袋、ヘルメット、ヘッドライト、軍手、ホイッスル、ウエストポーチ、血圧計、聴診器、体温計、ペンライト、筆記用具、ゴミ袋など
研修実施団体 | 日本看護協会・都道府県看護協会 |
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公益社団法人 東京都看護協会ホームページ | https://www.tna.or.jp/nurse/others/disaster/ |
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