私たちの働き方改革

2024/11

インカム活用による労働環境のDX化で、記録時間の短縮や入居者との時間創出を実現

インカム活用による労働環境のDX化で、記録時間の短縮や入居者との時間創出を実現

介護記録AIアプリ×インカムによる音声入力で
記録時間を約半分以下にまで短縮

インカムの導入で大きな効果を感じたのは、介護記録の作業時間の短縮です。これまで一人あたり約2時間かかっていた入力作業が、1時間以内で完了するようになりました。

以前は、介護中に都度メモをとり、後でまとめてパソコンで介護記録に入力するという流れで行っていました。業務時間内に仕事を終わらせなければという意識もあり、記録作業を優先させてしまうことが多くありました。ご入居者との時間を確保したい、でもしっかりと記録もとらないといけない。そんなジレンマを抱えながら時間に追われる日々で、とにかく職員に心のゆとりがなく、現場は常にバタバタしていました。

現在は介護記録AIアプリを使い、インカムを通して音声で記録を残しています。この方法のメリットは、リアルタイムかつ空いた時間で記録ができること。例えば「山田様排泄①」「●●時、部屋を出る」など、状況をその場で記録できるようになりました。これまで「記録のための時間」を確保する必要がありましたが、移動中や洗い物中など、他業務と並行しながら記録ができるようになったことが時間短縮につながったと思います。 また、これまでは早番から遅番への交代までに記録が間に合わず、口頭で申し送りを行っていました。今は定時内ですべて記録に残せるようになったので、申し送り時間も短時間ですむようになりました。リアルタイムに記録ができるためメモをとる必要もなくなり、今はメモを持ち歩いている職員はいないと思います。メモや申し送り時間の削減も、新たな時間の創出につながりました。

iPhoneを操作する介護職員▲インカムを通して音声入力した記録は手元のiPhoneで内容を確認でき、誤字などもその場で修正できる。

約1時間以上の時間が浮いたことで、ご入居者との時間がより確保できるようになったことは本当にうれしい効果でした。顔を見て座って話ができるようになったことはもちろん、職員の時間と心にゆとりができたことで、以前よりもご入居者の小さな変化に気づけたり、本音を引き出せるようになったと感じています。こうした情報を職員間で共有し、ケアの見直しなどにもつなげられるようになりました。私たち自身の働きやすさが、最終的にご入居者のためにもなるのだと実感しています。

インカム導入の大きな狙いが、「介護記録の音声入力」でした。記録時間は常に現場の課題で、約10年前に手書きからパソコン入力にしたことで効率化はできたものの、時間短縮にはつながっていないという状況でした。これまで、ご入居者との時間を捻出するために、例えば洗い物や掃除をする時間、職員の動線などを見直したりして小さな改善はつみ重ねていたんです。とはいえ、やはり職員の負担の比重が大きいのは圧倒的に記録でした。ここを変えなければ現場の忙しさはなくならないと思っていたので、こうして効果が出ているなら、ICTを導入して本当によかったです。

森さん▲これまで、定時内で終わらなかった早番の仕事を遅番が引き継いでいたが、現在はほとんどなくなった。「ふとした時に時間の余裕に気づき、「これがシステム導入の効果だ」と実感しました」と森さん。

現場への情報共有のポイントは
欲張りすぎないことと、リーダー層の代弁力

施設内のシステムが大きく変わるので、現場への伝え方も工夫しました。導入の1年前には機能などの情報はすべてそろっていましたが、タイミングをみて少しずつ伝えるようにしていました。新しい機能などを知れば知るほど、「こんなに便利だよ!」と現場のみんなに伝えたくなります。しかし、情報を伝えすぎると、システムが切り替わるまで落ち着かなかったり、難しく考えすぎて新しいシステムに抵抗感を感じてしまう人もいるのではと思いました。できるかぎり、「誰でも簡単に使える」というイメージを持ってもらえるようなアプローチを考えました。

もう一つ意識していたのが、情報の下ろし方です。例えば掲示板などに「●年から、このシステムに変わります」と張り紙だけしてお知らせしても、よく理解できずより混乱や反発を生むと思いました。かつ、私の立場から伝えるとどうしても一方的になってしまうため、現場の職員には森さんのようなユニットリーダーや主任を通して情報を伝えてもらうようにしました。これはうちの施設の強みだと思っていますが、リーダー層の代弁力が非常に高いんです。リーダー層の職員は「ここが不安だよね。でもこう使えば簡単だから大丈夫」というように、会話の中で自然に情報を現場に広めてくれます。上層部の動きや考えを、うまくかみ砕いて伝えてくれる力を信頼し、現場への普及はお任せしていました。

少しずつ情報を下ろしてくれたので、私たちリーダー層も混乱せず対応できたと思います。 現場では、すぐにすべての機能を使い始めたわけではなく、まずはインカムをつけることに慣れる、1項目だけ音声で入力してみるなどの練習からスタートしました。もちろん機械が苦手な職員もいますし、新しいシステムに抵抗感を覚えてなかなかインカムを手に取ってくれない職員もいました。ですが、職員同士で教え合いや学び合いをしてもらったことで、徐々に現場全体が新しいシステムに慣れていけたのだと思います。

幡さん(左)と森さん(右)▲「システムでわからないことがあれば、すぐに幡さんに確認できることも安心だった」と森さん。日ごろから気軽にコミュニケーションをとっていることが感じられた。

少ないコスト、労力、時間で
ご入居者・職員・地域のウェルビーイングを叶えたい

介護現場の職員は、すべての業務が大切だと思って日々懸命に取り組んでいます。ですから、記録に2時間使うことも当たり前だと思っていて、もっと短縮できると考えないのが当然なんです。だからこそ、私たちのような立場の人間が客観的な視点で現場を見ることが大切だと思っています。

幡さんの言う通り、現場の私たちは目の前の仕事やご入居者のことに必死で、業務に時間がかかりすぎていることに気づけません。誰かが困っていたらどうにかして手伝おうと自分を犠牲にしてしまう職員も多いんです。そうした中で幡さんが、職員への聞き取りやユニットの状況を視察して、特に時間を要している業務を確認してくれました。私たちの働きやすさを常に考え続けてくれていることがわかり、本当にありがたいです。私はいろいろな職場を経てセ・シボンに落ち着いていますが、とにかく働きやすいですし、体が続く限りここで働きたいと思っています(笑)。ご入居者や職員みんなが笑顔で過ごせる施設にしていきたいですね。

ポジションによって視点が異なるのは当たり前のことです。現場の職員はご入居者のこと、中間管理職は少し上の視点からご入居者と職員のことを、そして私たち役職者はさらに上の視点で施設全体を見なければいけません。経営の立場としては、新たなシステムを入れる際には費用対効果も意識し続ける必要があります。

今後活用したいと考えているのが、厚生労働省が出している「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン※」です。私一人の目で現場を見ることには限界がありますから、中間管理職の力やこうした国のツールも活用して、現場の生産性をもっと上げていきたいですね。少ないコスト、労力、時間で、ご入居者・職員の満足度向上、ひいては地域全体のウェルビーイングの達成を目指した施設づくりを、今後も追求していきます。

※介護サービス事業所が生産性向上の取り組みの参考資料として厚労省が作成したガイドライン。詳細はこちらから。

撮影:遠藤 麻美

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施設名:社会福祉法人 至福会 特別養護老人ホーム セ・シボンかしま
住所:〒314-0047 茨城県鹿嶋市須賀1350-1
開設:2004年6月
定員数:入所50名、短期入所10名 ※2024年11月時点
ホームページ:http://shifuku.or.jp/cestsibon

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