私たちの働き方改革

2025/3

業務量調査で見えた救急外来看護のリアル データ×やりがいで戦略的なタスクシフトを

業務量調査で見えた救急外来看護のリアル データ×やりがいで戦略的なタスクシフトを

独立行政法人 国立病院機構 横浜医療センター

<お話してくれた方>
副院長・救命救急センター長 古谷 良輔さん(後列・中央)
看護師長 阿部 敦子さん
<撮影にご協力いただいた皆さま>
看護師 門倉さん(前列・左)、吉村さん(前列・右)、佐藤さん(後列・左)、神山さん(後列・右)

横浜市南西部の救急医療の要である横浜医療センターの救命救急センター。当センターでは、看護師の業務量をデータで可視化することで、タスクシフトや人員配置の見直しを行い、「看護業務に専念できる環境整備」を着実に進めています。興味深いのは、医師が看護師の業務改善を推進し、データに加えて「看護師のやりがい」にも注目したこと。ここに、取り組み成功の秘訣がありました。データを活用した業務改善の経緯と効果について、救命救急センター長で医師の古谷さんと看護師長の阿部さんにお聞きしました。

ヒヤリハットの増加や疲弊する看護師の姿から
救急看護のタスクシフトを決意

古谷

タスクシフトに取り組んだきっかけは、救急外来の看護師の多忙さに「危機感」を感じたからです。

阿部

救急外来の看護師は、アセスメントなどの看護業務に加えて、書類業務、環境整備、搬送準備、さらには血管撮影室や産婦人科外来など、他部署のサポートにも対応していました。業務内容が多岐にわたるため、現場の看護師は目の前の業務をこなすことで精一杯でした。

古谷

患者数が増加し続ける中、看護師からは「休憩がとれない」「忙しすぎる」といった声が漏れ聞こえてくるようになりました。救急外来のインシデントやヒヤリハットの報告も増えてきており、これはさすがに危ない状況だと感じました。このままでは看護師が業務に追われるばかりでやりがいを感じられず、離職者が増えてしまうのではないか……。そうした危機感から、看護師のタスクシフトを決意しました。

しかし、やみくもに人員を増やしたり、看護以外の業務を他の職種にタスクシフトしたりするだけでは根本的な課題の解決にはなりません。看護師の業務は多岐にわたるからこそ、戦略的にアプローチする必要がありました。そこでまず救急外来の看護師が、いつ、どこで、どのような業務に対応しているのかを調査したうえで、タスクシフトを計画することにしました。

当初、アナログな手法で看護師の業務を記録しようとしましたが、業務の幅広さからすぐに限界を感じました。いろいろと調べる中で見つけたのが、「タイムスタディ支援サービス※」です。業務量や作業時間をデータとして記録・分析できるサービスは、客観的な視点で業務改善を進めるのに適していたため、タスクシフトの前に利用することにしました。

※タイムスタディ支援サービスについてはこちらをご覧ください

古谷先生▲取り組みを先導している古谷さん

本来の看護業務が2割に満たない……
タイムスタディで浮彫になった現場のリアル

古谷

タイムスタディは、2023年の5月と7月の2回に分けて実施しました。まず5月22日から28日までの1週間で看護師の業務状況を把握し、その結果をもとに改善策を実施。7月にも再調査して変化を確認するという流れです。現状分析ではなく、改善の効果を検証するために2回タイムスタディを計画しました。

阿部

タイムスタディには、5分以上かかる業務を入力するようにしました。業務と並行して入力しなければならないため、当初は負担に感じていたスタッフも多かったと思います。スタッフには「業務改善が目的であること」をしっかりと伝え、前向きに取り組んでもらえるように働きかけました。

古谷

データ分析で重視したのは、本来の看護業務の実施状況と、シェア・シフトできる業務内容でした。5月の調査では、日勤帯に看護師がアセスメントや患者ケア、家族対応に費やしている時間が、全体の20%にも満たないことが明らかになりました。一方で、片付けや連絡調整、書類入力、処置・検査対応、患者搬送など、必ずしも看護師が行う必要のない業務が全体の約60%を占めていたのです。

阿部

看護師は目の前の作業に一生懸命なので、どの業務にどれくらい時間をかけているのかまでは把握できません。タイムスタディで救急外来の看護師の業務が数値で明確化されてとてもよかったですね。

古谷

この結果を受け、事務部門と相談し、6月から救急外来の日勤帯にクラークを配置。書類入力や入院手続きなどの事務作業をタスクシフトしました。7月に実施したタイムスタディでは、看護師が行うこれらの事務業務が全体の20%から10%に減少。その分患者ケアや家族対応に費やせる時間が8.2%から16.4%へと倍増し、看護師が本来の業務に集中できる環境が整い始めたことがデータとして確認できました。
救急外来の看護師の皆さん▲患者さんやご家族、他職種とのコミュニケーションを大切に業務にあたる救急外来の看護師の皆さん

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施設名:独立行政法人 国立病院機構 横浜医療センター
住所:〒245-8575 神奈川県横浜市戸塚区原宿3-60-2
開設:1943年6月
病床数:490床 ※2025年3月時点
ホームページ:https://yokohama.hosp.go.jp/

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