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2023/3

小林光恵さんの おやすみコラム #005「偉大なる予言者」

小林光恵さんの おやすみコラム #005「偉大なる予言者」

30年くらい前のこと。場所は、介護施設だったか病院だったか……。
施設内を案内してくれた男性が、浴槽を指しながら、見学者の私の耳元で言いました。

「あなたはね、将来、浴槽を素手で触りながら洗うようになりますよ。予言します。ふふ」

どんな会話の流れだったかまったく記憶にないけれど、
<その予言ははずれます、洗剤とスポンジで洗って流せば十分じゃないの>
と思ったことだけはよく覚えている。その男性の、バインダーをもつ手の小指が立っていたことも。

先日、実家の両親が使っている浴槽を、素手でまんべんなく浴槽内を触りながら洗浄仕上げをしていると、くだんの場面がにわかに蘇り、思わず「当たってる」とつぶやきました。

私自身が入る浴槽については、昔もいまも、非常に雑な掃除ぶりですが、両親が入る浴槽の掃除はというと、わずかでも残った汚れのぬめりが転倒の原因になったら大変だと思い、それはもう丁寧に手のひらで汚れ残りを確認しなければ気が済まなくなり、そうするようになりました。
また、そうすると必ず、どちらかに小さなぬめりを発見して、追加で洗うことになるのですから、素手で確認、のプロセスはやめられなくなっているのです。両親の介護を始めるまでは、実家の風呂掃除などしたことがなかったこともここで白状しておきたいと思います。

というわけで、偉大なる予言者に敬意を表し、ときどき小指を立てて、実家の風呂掃除をしている今日このごろです。

著者/小林 光恵さん
元看護師。著述業。つくば市在住。
エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。

看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。2023年出版を目標に、ナイチンゲールの子孫が主人公の小説を鋭意執筆中。

<多数のメディアで連載中!>
●小説 『令和のナースマン』
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」
(Aナーシング 日経メディカル)
●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」
(Will Friends 日本看護学校協議会共済会)
●ドクターズコラム
(健達ねっと メディカル・ケア・サービス)
など

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