小林光恵さんの おやすみコラム #019「ドームツアー、行きませんか?」
2024/5/10
みんなの広場
2025/9
看護部門の採用担当の女性Aさんは、面接で目の前に座るBさん(56歳、看護師)にこう言ったそうです。
「でしたら、ヘアカラーで白髪カバーをお願いします。それだけお願いできれば、あなたは申し分のない人材です!」
それを受けて絶句したBさんは、全体の6割ほどが白髪のショートカットヘアです。
10年ほど前から白髪染めがルーチンになったBさんは、今回の離職中に悩みに悩み、やっと染めない決断をしました。Aさんからの「失礼ですが、加齢による白髪ですか?」という問いに頷いたあと、決断までの経緯を語ろうと意気揚々と息を吸ったなら、あまりにも意外なお願いをされて目を丸くしたのです。
少ししてBさんは口を開きました。
「理解できません。加齢による自然な変化である白髪を、どうして隠す必要があるのでしょう。高齢の看護職がキャリアを生かすことを奨励されているこの時代、おかしな考え方ではないでしょうか」
するとAさんはうすく微笑んだあと言いました。
「おかしな考え方? あなた、当方の看護部長のCが掲げた看護理念に共感して入職を希望されたとのことでしたね。そのCはホスピタリティとして、髪の傷みや薄毛のリスクを受け入れながらせっせと白髪染めを行っています。患者さん、特に高齢の方は、加齢による白髪のナースに対して体力面で不安視する面があるから、と話していました」
「そうですか。ご縁がなかったようですね」
その一週間後、なんと、この施設の看護部長CさんからBさんに謝罪メールが届きました。
「採用担当者の誤解と忖度があったようです。改めて、私と面接していただけませんか?」
看護部長Cが、Bさんの決断を大いに応援したいと語ったことで、Bさんはこの施設に就くことを決めたそうです。
著者/小林 光恵さん | 元看護師。著述業。つくば市在住。 エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。 看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。 <新刊情報> ナイチンゲールの子孫が主人公の小説 『ナイチンゲール7世』(イースト・プレス)が発売中! <多数のメディアで連載中!> ●小説 『令和のナースマン』 (月刊ナーシングキャンバス 株式会社Gakken) ●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」 (月刊ナーシング 株式会社Gakken) ●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」 (Aナーシング 日経メディカル) ●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」 (Will Friends 日本看護学校協議会共済会) ●ドクターズコラム (健達ねっと メディカル・ケア・サービス) など |
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