参考文献
「4つの原則で極める! 身体を痛めない介護術」
(岡田慎一郎著/中央法規出版)
中央法規出版 書籍ページ
腰や肩・膝を痛めてしまうのは、筋力や技術ではなく、身体の使い方の問題だった!本書は専門職として「介護」を行うための、身体のつくり方・使い方の基本に加え、「身体の使い方の4原則」を解説。無理なく仕事を続けるための介護術が身に着きます。
みんなの広場
2023/1
介助を行う際、被介助者が全介助状態の方なのか、軽度の方なのか、寝ているのか、座っているのか、どこへどのように移動させたいのかなど……相手の状態や介助のシチュエーションによって、最適な介助方法は変わってきます。
「古武術介護」の提案者である岡田慎一郎先生にお聞きした、あらゆるシーンに応用できる、介護技術を楽に行うための「4つの原則」と、現場ですぐにトライできる実践例をご紹介します。
初回掲載日:2015年1月15日
情報更新日:2023年1月30日
介護技術のベースとなる理論として広く介護の現場で認識されているのが「ボディメカニクス」です。「ボディメカニクスの8つの原則」として、「重心を意識する」「身体をひねらない」などがありますが、それらには共通している点がいくつかあります。そして、実際に現場ではいくつかを併用している場合もあります。
「この共通点に着目して“身体の使い方の原則”を半分の“4つの原則”に整理してみました。通常“体位の交換”“起こす”“立たせる”“座らせる”といった個別の技術を手順通りに進めていくのが学び方の定番です。しかし、すべての技術に共通する4つの原則を理解し実践することで、応用の幅が広がります。一人ひとりの被介助者の状況に合わせた介助方法を工夫しながらつくりだすことができるでしょう」(岡田先生)
■4つの原則■
原則1 踏みしめない
介助はしっかりと足を踏みしめた状態で行うというイメージがあるかもしれませんが、踏みしめてしまうと足の位置が固定されてしまうため、介助の動作をする場合は腰を中心にひねり、上半身のみで動くことになってしまいます。その結果、全身の連動が途切れて、腰に大きな負担がかかります。上半身の動きにあわせて下半身も同時に動かしていくと、上半身と下半身が体幹でつながり、全身の連動が引き出せるようになります。
原則2 「手のひら返し」で抱える
腕の筋力だけで被介助者を抱えて移乗させようとすると、手首やひじ、肩などに負担が集中します。そこで、背中と腕を連動させ、肩甲骨を活用しながら抱えることが重要になります。手の甲が上になるように被介助者に腕を回していくと、肩甲骨が広がりやすく、背中に適度な張りが生まれます。この張りがあることが、背中と腕との連動性が高まったサインです。手のひらを内側にして抱えるよりも、手の甲を内側にして抱えたほうが背中と腕が連動しやすく、楽に大きな力を出せるばかりでなく、被介助者の動きも感知しやすくなります。
しかし、実際に介護技術に活用する場合には、手の甲を内側にすると抱えにくく、その後の動作もしづらくなります。そこで、手のひらを内側にしつつ、背中と腕を連動させる方法を考えていきます。
原則3 骨盤を低くする
介助では相手の動きを引き出すということが基本中の基本だといわれています。たとえば相手を立ち上がらせる場合、介助者よりも被介助者の骨盤が高いと介助者が身体を前傾できず、立ち上がることができません。
しかし、介助者の骨盤の位置が下がれば、被介助者の前傾を誘導でき、スムーズに立ち上がることができます。この骨盤の位置関係は、立ち上がりだけでなく、介助技術全般の動作に共通します。
原則4 一体化する
骨盤の位置を相手よりも下げたとしても、介助度が高い方になると、動きが引き出せなくなるケースが現場ではよくあります。解決のポイントは相手にしっかり近づいて「一体化する」ということです。
ある程度の動きが出やすい方の場合、介助者の身体が離れていることは被介助者が動くスペースとなります。しかし、動きが出にくい、または全介助状態の方になると、スペースが空いてしまっていては、お互いの動きが伝わりにくくなり、技術が成立しなくなります。
ここからは4つの原則を意識して、実際に介助を行ってみましょう。4つの原則はさまざまなシーンに応用できますが、ここでは介護現場で想定されるふたつの介助方法について、4つの原則におけるPOINT!を示しながら解説していきます。
■床から起き上がりの介助■
POINT!
原則2「手のひら返し」で抱える
首筋から斜めに手の甲を入れ、肩甲骨を広げ、手首を返して背中と腕とを連動させる
POINT!
原則3「骨盤を低くする」
骨盤を高い位置から下げることにより、被介助者の動きを引き出す
POINT!
原則1「踏みしめない」
踏みしめないことで、片膝を倒し回転する動作がスムーズに
POINT!
原則4「一体化する」
起こしていくにしたがって、骨盤が近くなり、一体化する
■ベッドから車いすへの移乗■
POINT!
原則2「手のひら返しで抱える」
臀部を抱える際に、漠然と抱えず、手のひら返しを活用する
原則3「一体化」
抱えるときには被介助者と介助者の骨盤同士を近づける
※無理をすると身体を痛めやすいので、少しでも負担を感じたらすぐに中止してください
ご自分の介助を振り返ってみると、「無理な姿勢をしていたな……」「腕や上半身だけを使っていたな……」など、思い当たる節があるのではないでしょうか? 今回ご紹介したように、4つの原則を活用することで、問題点を把握し、どのように改善すればよいかが明確になります。そして、現場応用力がグンとアップするようになりますので、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。
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講師/岡田慎一郎さん | 理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員 身体障害者、高齢者施設に勤務し、独自の身体介助法を模索する中、武術研究家の甲野善紀氏と出会い、古武術の身体運用を参考にした「古武術介護入門」(医学書院)を刊行したところ大きな反響を呼んだ。近年は介護、医療、リハビリ、消防救命、育児、健康増進、教育など、幅広い分野で身体を通した発想と実践を展開させ、講演、執筆、企業アドバイザーなど多岐にわたる活動を国内外で行う。 著書「シンプル身体介助術」(医学書院)、「親子で身体いきいき古武術あそび」(NHK出版)、「古武術式 疲れない体の使い方」(三笠書房)など多数。「古武術介護通信講座ベーシックコース」(夜間飛行)監修、株式会社JTBベネフィット アドバイザー、邦人医療支援団体 JAMSNET東京理事兼事務局長を務める。 ホームページ:古武術介護の提唱者 岡田慎一郎公式サイト |
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