資格のチカラ

2024/7

診療看護師(NP)

患者さんのQOL向上のため、医師や多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき一定レベルの診療を行うことができる看護師のこと。アメリカでは50年以上の歴史があり、診療、検査、処方などを行っていますが、日本ではそこまでの権限は認められていません。認定を受けるには、NP協議会が実施するNP資格認定試験に合格する必要があります。2024年4月時点、全国に872名の資格認定者がいます。

診療看護師を目指したワケ 高度な医療知識と判断力で、チーム医療のキーパーソンに

資格取得年月:2021年4月
独立行政法人 国立病院機構 東京病院
診療看護師

わき みか脇 実花

医療現場のタスクシフト/シェアが進む中、診療と看護の視点を併せ持つ診療看護師(NP)のニーズが高まっています。今回は、国立病院機構 東京病院で診療看護師として活躍する脇 実花さんを取材。患者さんにタイムリーな処置を行い、多職種間の橋渡しを担う脇さんに、資格取得の経緯、診療看護師が果たす役割についてお話をうかがいました。

キャリアの幅を広げるために診療看護師の道へ

脇さんの看護師としてのご経歴を教えてください。

2007年から東京病院で看護師をしています。もともと緩和ケアに興味があったのですが、まずは急性期から終末期まで幅広い患者さんがいる呼吸器内科で、看護師としての基本スキルを学ぶことにしました。それから5年経ち、急性期治療に対して看護がどのように介入できるのか勉強したいと思うようになり、集中治療室(ICU)へ異動。現在はICUから高度治療室(HCU)に名称が変更になりましたが、重症度の高い患者さんのケアを変わらず行っています。

診療看護師について知ったきっかけは何だったのですか?

当院は呼吸器疾患を専門とするため、人工呼吸器をつけた患者さんが数多く入院されています。人工呼吸器は患者さんの苦痛が大きいため、かつては鎮静剤などを投与して過鎮静*にし、治療を行っていました。ですが、その弊害として急性期治療を脱したあとに、せん妄が起きたり、体力や認知力が低下したりするケースも。そうなると、退院して自宅に帰ってから患者さんご本人、そしてご家族も生活が立ち行かなくなります。

そこで現在は患者さんを少し覚醒させ、苦痛を和らげる薬を使いつつ、音楽を聴いたり家族とコンタクトを取ったり、体を少しだけ動かしたりしながら治療に臨んでいただくことが増えています。そこに面白みを感じ、キャリアの幅を広げるためにもより多様な患者さんと関わりたいと考えるようになりました。そんな話を看護師長にしたところ、診療看護師について教えていただきました。

そこからすぐに資格取得に向けて動き出したのでしょうか。

看護学生だった頃、海外のナースプラクティショナー(NP)の記事を読み、私もこの道に進みたいと思ったことがありました。当時は日本に存在しない資格でしたが今ではあると知り、海外のNPとは権限が違うもののぜひ挑戦したいと思いました。そこで、2019年から資格取得のために東京医療保健大学大学院に通い、当院の診療看護師第1号になりました。

*薬の過剰投与によって精神機能や運動機能が低下した状態。体動しないように薬の投与で無理やり眠らせることによって、体力や認知力の低下が大きくなると言われています。

診療看護師の脇 実花さん

2年間の大学院教育課程を経て、同院初の診療看護師となった脇さん

患者さんの症状から病気を鑑別する「臨床推論」の面白さ

大学院ではどのようなことを学びましたか?

診療看護師の総論、海外のNPとの比較などから始まり、幅広く学びました。チーム医療について学ぶため、ソーシャルワーカーや管理栄養士、臨床工学技士の方など多職種の方に授業をしていただいたことも。医師による疾患総論のほか、治療計画の立て方など具体的な講義もありました。講義形式だけでなく、グループワークの機会も多かったです。

さらに、大学院なので研究論文を書く必要もありましたし、2年目からは実習も。資格取得に向けた勉強、大学院の試験勉強もあるので大変でした。コロナ禍だったのでオンラインも併用しつつ、朝から晩まで勉強していました。

印象に残っている授業はありますか?

患者さんの症状からどのような病気か鑑別する「臨床推論」は、とても勉強になりました。看護師は医師の診断に基づきケアを行いますが、診療看護師は自分で所見を取ることが求められます。例えば、患者さんが腹痛を訴えて救急外来を受診した場合、自分で所見を取り、疾患を鑑別する必要があります。

「この患者さんの発症様式や併存疾患など、問診内容と身体所見から、この治療薬の副作用による腹痛の併発が考えられるかもしれない」「CTでこういう所見があったので、胆のう炎かもしれない」と、考えられる疾患をいくつも挙げ、診察や検査によって絞り込んでいく。こうした考え方は看護師にはないものだったので、とても新鮮でした。

試験対策はどのようにされましたか?

医師や看護師の国家試験と違い、診療看護師の試験には過去問題集がありません。先輩から「こういう問題が出たよ」と噂が伝わってくるくらいでした。結局、医師国家試験の必須問題を、みんなでひたすら解いていました。

休職制度や学費サポート制度を活用

大学院に通っていた2年間、お仕事はどうしていましたか?

休職しました。ありがたいことに、国立病院機構には研究休職制度があるので、給与の数割をいただきつつ大学院に通うことができました。国立病院機構の宿舎もあり、格安で入居できたのもありがたかったです。院長や師長もとても理解があり、さまざまな面でサポートしていただきました。ただ、同じ大学院に通う方の中には、病院をいったん退職される方もいました。

資格を取得するうえで、一番高いハードルは何でしたか?

学費と2年という期間です。1年間に約200万円の学費がかかるうえ、休職・退職することでキャリアが一度ストップします。土日のどちらかだけ勤務先の病院で働く方、アルバイトをしながら学業と両立している方もいました。学費のサポート制度もあるので、私もそちらを利用しながら通いました。

国立病院機構 東京病院さまの職場風景

診療看護師はチーム医療の要として、多職種の橋渡しを担う

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1日のスケジュール

8:00抄読会・勉強会各診療科の抄読会や勉強会に参加
9:00手術患者入室時の確認術前状態の確認。依頼時、手術第2助手として参加
HCU入室中の患者ケア・術後疼痛管理について、主治医や麻酔科医師と相談し、代行にて指示、処方
・検査結果や患者の状況をもとに主治医に本日の治療方針について確認し相談。病棟看護師とも共有
・人工呼吸器患者入室時の血液ガス採取、鎮静剤・鎮痛剤の調整など諸事項の調整を代行にて実施
Post HCU患者のケア・電子カルテにて情報収集し、患者を訪問。必要時、病棟看護師へ人工呼吸器ケアのアドバイス
・MEより医療機器使用状況を確認し、病棟ラウンドを実施(人工呼吸器の設定調整など)
12:00休憩
13:00HCU入室中の患者ケア・術直後患者の呼吸状態、循環動態、疼痛管理の実施
・HCUに入院した患者の初期対応の実施
・滞在している患者の人工呼吸器設定の調整、鎮静剤・鎮痛剤調整など代行にて実施
・主治医、担当看護師、理学療法士、作業療法士と協働し、人工呼吸器装着患者の早期リハビリや体位ドレナージを実施
Post HCU患者のケア・術後疼痛管理コントロール不良患者の訪問。状況把握し、疼痛時薬の使用タイミング等を説明
・主治医や病棟看護師より、呼吸器ケアの介入依頼があれば対応
17:00退勤※症例カンファレンスに参加することもあり
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大量の教材をデータ化し、実習先で活用

「認定試験を受ける前に、救急科、総合内科、外科、麻酔科で実習を行いました。実習では教科書や資料を参照しますが、その量が多く、かつてはスーツケースに詰め込んで持ち運んでいたそう。それでは大変なので、私はデータ化してノートPCやタブレットで確認していました。かさばらないのでおすすめです」(脇さん)

取得方法・お問い合わせ

資格主催団体名一般社団法人日本NP教育大学院協議会
資格種類一般社団法人日本NP教育大学院協議会 資格認定制度
受験資格1、2のいずれかを満たしていること。
1. 日本国内の看護系大学大学院のNP養成コース修了者/修了予定者
大学院への出願条件は、学士の学位を授与された者、大学を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者等の出願条件を満たし、かつ実務経験が5年以上ある者。
2. 海外のNPの免許取得者
ホームページ日本NP教育大学院協議会

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