みんなの広場

2025/7

小林光恵さんの おやすみコラム #033「年中七夕飾り」

小林光恵さんの おやすみコラム #033「年中七夕飾り」

園田悦郎さん(85歳・仮名)の部屋には、クリスマス用の人工のツリーに七夕用の短冊がぎっしり吊ってあるユニークな七夕飾りがあります。

3年前の7月8日のこと。訪問看護師の梅野さんが、願い事を書いた七夕の短冊を「届けるのが遅れた」と恐縮しながら悦郎さんに差し出しました。
すると悦郎さんは、昨夜まで笹の七夕飾りがあったテレビ横のスペースに目をやったあと、梅野さんから受けとった願い事をじっと見ていました。
その翌日、悦郎さんの担当の作業療法士から梅野さんに電話があり、クリスマス用のツリーに梅野さんが書いた短冊が下がっていたとのことで、
「なんと、悦郎さんが、そのツリーを隣の隣の部屋の押し入れから自力でもってきたらしいんですよ。悦郎さんの現状からは無理のはずなんですけど」
無口な悦郎さんは、誰が問うてもどのようにツリーをもってきたのか語らないため、その出来事は「悦郎さんの奇跡」と呼ばれるようになりました。彼を訪問している担当者たちは、願い事を短冊に書いてそこに下げるようになり、12月のクリスマスの時は、彼のお孫さんが、それまでの短冊を全部外してクリスマスの飾りを下げ、それが終わるとまた、みなが七夕の短冊に願い事を書いて下げるようになったといいます。

先日この話を梅野さんから聞いた私は、一日遅れで届けた短冊に書いた願い事が気になり、内容を尋ねると、こんな答えが。
「実は最初は、血圧の薬を勝手に飲まないなんてことがなくなるように、<園田悦郎さんの血圧が安定しますように>って書いたんだけど、なんか意図的な気がして。私の願いであってみんなへの願いというつもりで、<会いたい人に会えますように>って書いたの。ほかの人たちも、自分自身の願い事を書いててね、悦郎さんはそれを眺めるのが好きみたい」
誰かの願い事に胸が打たれることがありますが、悦郎さんもそうだったのかもしれませんね。

 

著者/小林 光恵さん
元看護師。著述業。つくば市在住。
エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。

看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。

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<多数のメディアで連載中!>
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●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」
(月刊ナーシング 株式会社Gakken)
●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」
(Aナーシング 日経メディカル)
●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」
(Will Friends 日本看護学校協議会共済会)
●ドクターズコラム
(健達ねっと メディカル・ケア・サービス)
など

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