小林光恵さんの おやすみコラム #008「輪ゴムにお詫び」
2023/6/14
みんなの広場
2023/8
「一喜一憂」という言葉は、どうして一喜が先で、一憂があとなんだろう。
母の入院先に通っているうちに、そう思うようになりました。明日はリハビリ病棟に転棟だと喜んでいたら、腸閉塞と肺炎を発症し重症室に移り、心配でたまらない状態となり、熱が下がったと聞いてほっとすれば、ふたたび発熱して心配になる、などが繰り返されるうちに、喜ばしいことを聞いても、つぎにまた母は心配な状態になるかもしれないと思い、嬉しいことを聞いても喜ぶのを抑えるようになりました。「泰然自若」なんて語を頭に浮かべながら。一喜したあとには必ず一憂がやってくる気がして、一憂が来たときのショックを少なくしたいから。
しかしその後、喜ぶのを抑えるのは、何かくやしい気がしてきて、一喜一憂の語源や由来を調べてみたら不明とのこと。ならば、後世で、いつのまにこの語は一憂一喜になっており、その理由は不明なんてこともありかもと考え、まずは私の頭の中の辞書の「一喜一憂」を「一憂一喜」と上書きしてしまうことにしたのです。
そして昨日、母が五日前に移ったリハビリ病棟の入口で看護師さんが「車椅子に移っていただくために抱きかかえようとしたらお母様<重くて悪いから、私、自分で……>っておっしゃったんですよ。重くないのに」と言ってクスリ。体重がさらに減って25キロで、現在は自力で立つ体力もない母ですが、看護師さんにジョークを言える元気が出てきたのだなと思うと、とても嬉しくて、帰りの車のなかで大いに喜びました。
一憂一喜って、役者さんの芸名みたいでもあり、気に入っています。
著者/小林 光恵さん | 元看護師。著述業。つくば市在住。 エンゼルメイク研究会代表、ケアリング美容研究会共同代表。 看護師、編集者を経て、1991年より本格的に執筆業を中心に活動。『おたんこナース』『ナースマン』など。2023年出版を目標に、ナイチンゲールの子孫が主人公の小説を鋭意執筆中。 <多数のメディアで連載中!> ●小説 『令和のナースマン』 (月刊ナーシング 株式会社Gakken) ●エッセイとイラスト 「アンチヘブリンガン」 (月刊ナーシング 株式会社Gakken) ●コラム 小林光恵の「ほのぼのティータイム」 (Aナーシング 日経メディカル) ●コラム 「ついついやってしまいがちなエンゼルケア」 (Will Friends 日本看護学校協議会共済会) ●ドクターズコラム (健達ねっと メディカル・ケア・サービス) など |
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