アセスメント能力があるからこそ、質の高いフットケアができる
「フットケア」という言葉を耳にした時に、多くの方は医療系より“美しく魅せる足”をゴールとする美容系のフットケアをイメージするかもしれません。しかし木嶋先生は、医療系と美容系のフットケアは大きく異なると言います。
「看護師や介護士が足を診る際は、アセスメントを重視します。アセスメントとは、実際のプランを立てるうえで、患者さんや利用者さんが置かれている状況や生活環境をふまえて課題を把握し、あるべきゴールを見据えるプロセスのこと。
例えば生活の中では、歩行のようにこれまで当たり前にできていたことを継続できるようにすることが、その方らしい生き方につながってくると思います。そうした当たり前のこともふまえながら、その方が“今後、どのような人生を歩みたいのか”を捉えることが、医療介護従事者としてフットケアを施す前に大切になります。これは高いアセスメント能力をもつ看護師や介護士だからこそ見据えることができるゴールであり、医療としてのフットケアのあり方です。『フットケアって爪切りだけでしょ?』といった誤解をされないためにも、実際にアセスメント情報を紙に書き出したり、気づいたことを患者さんや利用者さんに伝えたりすることが大変重要です」
木嶋先生が実際にフットケアに携わる場合は、現在の足の状態を言葉にすることから始め、放置すると起こり得ること、そして今回のフットケアと次回の計画について、患者さんや利用者さんに明確に伝えているのだそうです。
とはいえ、医療や介護の現場は多忙であり、フットケアに使える時間は限られています。そのため、例えば足の爪であれば“完璧な状態まで行かずとも、患者さんが安全に過ごせる状態にする”ことをその回のゴールとしてもよいそうです。そして次にお会いする際に、再度ケアをすれば十分に足の健康を保つことができると言います。
まずは、臆することなく挑戦! スタッフ間の練習も効果的
看護師さんや介護士さんがフットケアに慣れないうちは、どのような経験を積むとよいのでしょうか?
「まずは、同じ職種やチームに属する身内同士で練習してみましょう。爪切りやニッパーは刃物であるため、使い慣れていないと患者さんも怖い思いをするんですよね。自分一人で爪切りの練習をする際は、100円ショップなどで売られているネイルのチップを活用するとよいでしょう。チップをたくさん重ねると分厚い爪になります。ファンデーションの台形スポンジにネイルチップをくくりつけて、爪を切って差し上げる向きにして練習すると感覚がつかめると思います。とはいえ、人の爪だとどこまで刃を入れたら痛くないかがわからないので、基本だけでもセミナーや研修などで勉強すると自信がつくと思います」
タコを削る練習は、足にタコがある人を探して練習台になってもらうのもおすすめ。「今の触り方はちょっと痛いな」といったダイレクトな反応があると、勉強になると言います。そのような練習を積んでから実際のフットケアに臨むのが理想的ですが、患者さんや利用者さんに足を見せてもらう機会は、慢性病にかかっていない限り、実際はそう多くないのが現状。そこで足を見せてもらうための声がけとして、木嶋先生は“誕生月”を活用していたそうです。
「『これからは年に1回、足も元気なことを見せてもらいたいと思っています。今年の誕生日から始めてもいいですか?』と伝えると、見せてくれる方が多いんです。そして足のトラブルが見つかった方へは『このような間隔で見せてもらいたい』と追加でお伝えします」
木嶋先生はフットケアの最中、患者さんとのトークも大切にしています。その際は「からだのことに限らず、お話したいことを聞かせてください」とお伝えするとのこと。
「なぜ、そのようなお声がけを始めたかというと、日々の生活の中で自分の気になることがある場合、それが解決に向かわないと、療養に目が向かないことに気づいたからです。お話に対して共感の意を示すと『応援してくれる人がいるんだ』と、ぐっと距離も近くなるんですよね。少しでも楽しく感じていただけるように、そして自分の感じたことがしっかりと相手に伝わるように、少し大げさに表現することを心がけています」
「自分のからだを、こんなに大切にしてもらったことはない。だから私は、あんたのために頑張る」と利用者さんから言われたこともある、と木嶋先生。最後までよりよい人生を生きていただくために、今後もフットケアを推進する活動に力を入れたいと語りました。
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