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2024/6

看護師・介護士だからこそできる! アセスメント能力を生かしたフットケア

看護師・介護士だからこそできる! アセスメント能力を生かしたフットケア

アセスメント能力があるからこそ、質の高いフットケアができる

「フットケア」という言葉を耳にした時に、多くの方は医療系より“美しく魅せる足”をゴールとする美容系のフットケアをイメージするかもしれません。しかし木嶋先生は、医療系と美容系のフットケアは大きく異なると言います。

「看護師や介護士が足を診る際は、アセスメントを重視します。アセスメントとは、実際のプランを立てるうえで、患者さんや利用者さんが置かれている状況や生活環境をふまえて課題を把握し、あるべきゴールを見据えるプロセスのこと。

例えば生活の中では、歩行のようにこれまで当たり前にできていたことを継続できるようにすることが、その方らしい生き方につながってくると思います。そうした当たり前のこともふまえながら、その方が“今後、どのような人生を歩みたいのか”を捉えることが、医療介護従事者としてフットケアを施す前に大切になります。これは高いアセスメント能力をもつ看護師や介護士だからこそ見据えることができるゴールであり、医療としてのフットケアのあり方です。『フットケアって爪切りだけでしょ?』といった誤解をされないためにも、実際にアセスメント情報を紙に書き出したり、気づいたことを患者さんや利用者さんに伝えたりすることが大変重要です」

木嶋先生が実際にフットケアに携わる場合は、現在の足の状態を言葉にすることから始め、放置すると起こり得ること、そして今回のフットケアと次回の計画について、患者さんや利用者さんに明確に伝えているのだそうです。

とはいえ、医療や介護の現場は多忙であり、フットケアに使える時間は限られています。そのため、例えば足の爪であれば“完璧な状態まで行かずとも、患者さんが安全に過ごせる状態にする”ことをその回のゴールとしてもよいそうです。そして次にお会いする際に、再度ケアをすれば十分に足の健康を保つことができると言います。

フットケア指導士 木嶋千枝さん

まずは、臆することなく挑戦! スタッフ間の練習も効果的

看護師さんや介護士さんがフットケアに慣れないうちは、どのような経験を積むとよいのでしょうか?

「まずは、同じ職種やチームに属する身内同士で練習してみましょう。爪切りやニッパーは刃物であるため、使い慣れていないと患者さんも怖い思いをするんですよね。自分一人で爪切りの練習をする際は、100円ショップなどで売られているネイルのチップを活用するとよいでしょう。チップをたくさん重ねると分厚い爪になります。ファンデーションの台形スポンジにネイルチップをくくりつけて、爪を切って差し上げる向きにして練習すると感覚がつかめると思います。とはいえ、人の爪だとどこまで刃を入れたら痛くないかがわからないので、基本だけでもセミナーや研修などで勉強すると自信がつくと思います」

タコを削る練習は、足にタコがある人を探して練習台になってもらうのもおすすめ。「今の触り方はちょっと痛いな」といったダイレクトな反応があると、勉強になると言います。そのような練習を積んでから実際のフットケアに臨むのが理想的ですが、患者さんや利用者さんに足を見せてもらう機会は、慢性病にかかっていない限り、実際はそう多くないのが現状。そこで足を見せてもらうための声がけとして、木嶋先生は“誕生月”を活用していたそうです。

「『これからは年に1回、足も元気なことを見せてもらいたいと思っています。今年の誕生日から始めてもいいですか?』と伝えると、見せてくれる方が多いんです。そして足のトラブルが見つかった方へは『このような間隔で見せてもらいたい』と追加でお伝えします」

木嶋先生はフットケアの最中、患者さんとのトークも大切にしています。その際は「からだのことに限らず、お話したいことを聞かせてください」とお伝えするとのこと。

「なぜ、そのようなお声がけを始めたかというと、日々の生活の中で自分の気になることがある場合、それが解決に向かわないと、療養に目が向かないことに気づいたからです。お話に対して共感の意を示すと『応援してくれる人がいるんだ』と、ぐっと距離も近くなるんですよね。少しでも楽しく感じていただけるように、そして自分の感じたことがしっかりと相手に伝わるように、少し大げさに表現することを心がけています」

「自分のからだを、こんなに大切にしてもらったことはない。だから私は、あんたのために頑張る」と利用者さんから言われたこともある、と木嶋先生。最後までよりよい人生を生きていただくために、今後もフットケアを推進する活動に力を入れたいと語りました。

木嶋先生直伝! 今日から始められるフットケアの方法はこちら

 

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「足が痛い」の声から指を伸ばし始めて、歩き方まで変わった患者さんの思い出

木嶋先生が、とある回復期の病院に出入りしていた時のこと。ある日、リハビリ期にある患者さんから「足が痛い」と訴えがあると、理学療法士さんから木嶋先生に相談が入りました。木嶋先生が足の状態を確認すると、脳梗塞の影響で指が丸まり、爪が伸びた状態で、伸びた爪が皮膚に当たって食い込んでいることがわかりました。

足の指を伸ばすリハビリは全くされていなかったことから、ご本人には「気づいた時だけでも自分で伸ばしてみるとよいですよ」とアドバイス。理学療法士さんにも足の指を伸ばしていただけるようにお願いしたところ、指の拘縮が少しよくなりました。看護師と理学療法士が連携して患者さんによい関わりができたこと、何よりフットケアの重要性をあらためて認識できたことは、木嶋先生の心に感慨深い思い出として刻まれています。

木嶋千枝さん
足育実践フォーラムAbeby代表、群馬大学臨床教授
群馬大学病院・済生会前橋病院・伊勢崎市民病院に勤務し、2011年群馬大学博士前期課程(保健学)修了。2012年に日本看護協会慢性疾患看護専門看護師資格を取得。子どもと大人の足や靴を通した健康支援や啓発を提供するためにAbebyを起業し、2022年から群馬県渋川市で足育実践フォーラムAbeby(サロン)を開業、高齢者施設のフットケア委託も請け負う。その傍ら、群馬大学臨床教授、高崎市医師会看護学校非常勤講師を兼務する。
足育実践フォーラムAbeby

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