私たちの働き方改革

2024/2

ロボットの導入と看護師と薬剤師の協働を推進 トヨタ式“カイゼン”で患者さまとの時間を創出

ロボットの導入と看護師と薬剤師の協働を推進 トヨタ式“カイゼン”で患者さまとの時間を創出

多職種との連携で、より手厚いケアが可能に

黒田

こうした取り組みにより、薬剤搬送のプロセスは大きく変わりました。今では、薬剤科でミキシングした薬剤を各病棟宛てのワゴンに置くと、ロボットが自動搬送。病棟に到着すると、看護師がワゴンを引き入れ、患者さまに薬剤を投与するという流れになりました。看護師からは「作業の中断がなくなった」と好評です。

2019年の実証実験段階から、ロボットも進化しました。初期型は荷台と一体型だったため、看護師が薬剤を取り出さないとロボットが元の場所に帰っていきませんでした。ですが、最新型では看護師がいちいち取り出さなくても、ロボットが薬剤を置いていってくれるようになりました。今では病院全体で25台のロボットが稼働し、1日5回の病棟への薬剤搬送のほか、検体や医療機器も搬送しています。

中島

新病棟への引っ越しと同じタイミングでロボットを導入したため、移行もスムーズでした。せわしなく働いている看護師のところへ、ロボットが喋りながらゆっくり近づいてくると、心も癒されます(笑)。ロボットが「行ってきます」と言うと看護師が「行ってらっしゃい」と声をかけたり、患者さまもロボットに「頑張ってね」と話しかけたりしていて、病棟が和やかな雰囲気になりました。

薬剤師とのやりとりも増え、さまざまな職種と協力して患者さまをケアできていると実感しています。

柴田

私は、今回の取り組みを通していろいろなことに気づくようになりました。業務改善においては、“気づき”がとても大事です。これまで私たち看護師は、無駄な動作に気づいていませんでしたが、「TPS・カイゼン推進グループ」の方からすると、看護師が医療用手袋ひとつ取るにも無駄な動作があるそう。左手で箱を押さえて手袋を取っていたら、「その左手の動作が無駄です」と言われました。片手で押さえなければ箱が動いてしまうなら、箱を固定すればいい。他にも、「かがむ、振り向く、引き出しを開けるといったアクションは無駄と考えてください」と言われ、意識が大きく変わりました。新たな視点を得たことで、患者さまのケアにおいても今までとは違った気付きを得られるようになりました。

中島

この取り組みを通して、現場が声を上げれば“カイゼン”が進むことがわかり、看護師たちが前向きになりましたよね。「こうしたいけど無理だよね」ではなく、「こうなるといいね」「じゃあ、『TPS・カイゼン推進グループ』に相談してみる?」と、他部署の方々に頼りながらも実現に向けて動き始めるようになりました。私たちが勤務する病棟はいち早く“カイゼン”が進みましたが、病院全体にこの機運が広がればもっと働きやすくなると思います。

看護長 中島宏美さん▲看護長 中島宏美さん(中央)

看護の本質を忘れず、その実現に向けて行動を

柴田

こうした取り組みは、他の病院にも応用できるはずです。現状を見直し、動線を工夫するだけでも、業務の効率化は図れると思うのです。

私は2024年1月に他病棟に異動したのですが、その病棟はまだ“カイゼン”が不十分です。電池を交換するにも、ゴミ箱と新しい電池の置き場所が離れているため、移動しなければなりません。こうした点を工夫すれば、無駄がなくなり動きやすくなるはず。現在は試行錯誤しながら、“カイゼン”を進めているところです。

中島

私が業務効率化において大切だと思うのは、現場から上がった声を聞き流さず、きちんと受け入れ、何らかの形で応える姿勢です。何気ない意見でも、現場の問題解決につながるかもしれない。その声には必ず応えなければと思っています。

また、改善策を考える際には、できるだけ現場のスタッフに加わってもらい、主体的に考えていくことも重要です。現場の方々が運用しやすいシステムにしなければ、なかなか定着しません。

黒田

私が重視しているのは、自分たちが大切にしている看護を忘れず、その実現のために行動することです。今回、この取り組みを達成できたのは、現場の看護師たちの「患者さまと向き合う看護をしたい」という思いがあったからです。看護管理者のふたりはその声を聞いて懸命に患者さまと向き合う方法を考えましたし、私も病院幹部に働きかけてきました。いかにこうした調整をしっかり行うか、そこに投資してもらえるか、現場を巻き込む看護管理者を育てるか。これらが働き方改革の成否を分けるのだと思います。

この取り組みを始めてから、看護師はよく患者さまと話すようになりました。2017年度には10.3%だった離職率も、2022年度は7.2%になりました。看護師から「患者さまの人生観を初めて聞くことができました」と言われた時には、涙が出そうになりました。そもそも看護師は、日々の看護に加え、患者さまの退院後の生活を考えなければならない立場のはずです。これは、看護師が悪いわけではなく、その環境をつくってこなかった私たち管理者の責任だと痛感しました。

今回の取り組みにより、当院では看護の本質を追求し、より質の高いケアができるようになりました。看護師本来の仕事ができるようになったことは、患者さまの喜びにもつながるはずです。これからも“カイゼン”を続け、患者さまに貢献していきたいと願っています。

文:野本 由起/写真:井上 亮

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施設名:トヨタ記念病院
住所:〒471-8513 愛知県豊田市平和町1丁目1番地
開設:1987年
事業内容:内科、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科、脳神経内科、血液内科、腎臓内科、内分泌・糖尿病内科、リウマチ科、感染症内科、腫瘍内科、緩和ケア内科、
緩和ケア外科、精神科、小児科、小児科(新生児)、外科、小児外科、整形外科、
消化器外科、内視鏡外科、肛門外科、脳神経外科、乳腺外科、呼吸器外科、心臓外科、
血管外科、形成外科、眼科、耳鼻いんこう科、産婦人科、生殖医療・産婦人科、皮膚科、泌尿器科、歯科口腔外科、麻酔科、救急科、病理診断科、リハビリテーション科、
放射線治療科、放射線診断科
内視鏡科*、総合内科*、ゲノム医療科*、集中治療科*、海外渡航科*、臨床検査科*
*印は院内標榜科
ホームページ:https://www.toyota-mh.jp/

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